第28話

 結局、二日間の休みは右手の回復と必殺技の練習に溶けました。気が付いたら日付変わってたから驚いたよな。


 今日は戻ってきた班長と共に解体業務からスタート。研究所内も少しだが余裕が出来たらしく、また解体業務多めの日々が続きそうだ。


「そういや、結局どうだったんだ?」


「え? あぁ、あの防御力高い相手のアレコレの話ッスよね?」


「そうそう。向こうに行ってる間に真宮とも話してて結果が気になってな」


「それならうまくいきましたよ。映画は何の役にも立ちませんでしたが、オマケ映像でどうにか元は取れました」


 魅せる動きを真似るより、殺れる動きを研ぎ澄ませた方が結果として魅せられる動きに出来る。


 それに至ったからこそ、使えそうな知識や動きだけ取り込むようにしようと思った。ま、今の俺の馬鹿力だと大抵ゴリ押しで何とかなるんだが。


「マジか、割と冗談で言ってたんだが……」


「取り敢えず、ワンインチパンチっぽいのは出来るようになりました」


「慶治、成長速度半端ないねぇ……」


 コレには班長も真宮先輩もやや呆け気味に唖然としている。まぁ、あのアクションコメディまで混ざった雑多な映画で技を身につけられるとか、普通だったら誰も思わないだろう。


 でも、それが出来ちまったんだからもう仕方が無いよなぁ。


「慶治が戦う姿、ちょっと見てみたくなりました」


「奇遇だな。俺も少し見てみてぇわ」


「丁度いい相手がいないんスけどね」


 見せられるなら見せたいところだが、流石にあの大男クラスの防御力がある妖魔とは早々出会えると思えない。


 それに、威力が高過ぎてヘタにぶっ放すと瀕死どころか爆散しかねないのも判明している。試しに廃棄予定の鉄板を殴ってみたら、真ん中から破れるような形でバラバラになったからな。


 多分、今解体しているヤマネコの妖魔とかはワンパンで胴体が二つに裂けてもおかしくはない。


「防御力高い奴か無駄にタフな相手前提の技なんですがね。ヘタすりゃ素材になる部分もぶっ飛びますよ」


「どんな威力してんだよ……お前の腕、大砲かなんかなのか?」


「……威力だけならそうかもしれねぇっすね」


 ヘタな殴り方するとこっちにダメージが入るが、確かに威力だけ見たら大砲と同レベルかもしれない。


 硬い妖魔の解体も、この拳でガンガン殴った方が案外綺麗に解体出来るかもしれないしなぁ。


「ま、討滅依頼が来たらその時は頑張ってもらうとして、だ。今は殺到してる解体作業をバンバン終わらせていくぞ!」


「うぃーす! あ、このヤマネコどうします?」


「向こうに回収車が集まってるから、そこに持ってけばいいだろうよ」


 こうして、ヤマネコの妖魔に始まってクマの妖魔やカブトムシの妖魔など、様々な妖魔を手頃なサイズに解体しながら次の場所へ移動していく。


 悲しいことに荷台にそこまで余裕がないからとクッションの持ち込みが出来なかったので、そろそろケツが破壊を超えて崩壊しそうなくらいに死に掛けてきていること以外、特段大きな問題は起きていない。


「よっ……と。結構やってきましたけど、まだ終わらないッスか?」


 バラしたヤドカリの妖魔のハサミと脚を次々と回収車の荷台に積み込んでいくが、ここまででもう十箇所以上解体現場を巡ってきている。


 それだけ討滅部隊の人達が頑張っているという話でもあるのだが……


「タイムリーな話ですね。どうやら、大鴉の上位個体が出てきているみたいで、他の妖魔達がどんどん追いやられているみたいですよ」


「成る程、道理で多いわけだ。しかも大鴉の上位個体ってことは、それなりに知恵をつけてる小賢しくてヤベェ奴かもな」


 真宮先輩も色々と聞いていたらしいが、どうやら大鴉の上位個体が現れてかなり大きな群れを作っているらしい。


 討滅部隊が全力で討滅に当たっているが、何分数が多くてボスが狡猾な為、中々攻めあぐねている部分も多いんだとか。


 分断して各個撃破だけではなく、誘引してきた他の妖魔をぶつけたりもしてくるので、現地はかなりの乱戦模様だと言う。


「散兵、伏兵もお手の物だそうで、ヘタすればコチラにその余波が飛んでくることもあるって言われてますね」


「……今日はコレで撤収が丸いかもな。真宮、その辺りはどうなんだ?」


「出来るなら討滅の人手は欲しいみたいですけどね。他の人もそろそろ撤収すると聞いてますし、私達もここで退くのがいいでしょう」


 今日の業務はコレで終わりになりそうな流れ。五匹のヤドカリの妖魔も解体が終わったし、後は支社に戻ってのんびりするだけなんだが……


「大鴉って、子供も獲物にするんですよね?」


「ん? あぁ、そうだな」


「もし生き延びた連中がいたら、報復狙いで女子供や老人を狙う可能性は?」


「……充分有り得るぞ。アイツ等、そういうところだけは無駄に賢いからな」


 そうかそうか。なら、俺だけはサービス残業どんとこいの精神で残る方がいいだろうな。


 俺の話しぶりで何となく察したらしい班長も、起こり得る可能性を考えて一つため息を吐き、やや苦笑気味にこちらを見てくる。


「言っとくが、自分の命を最優先に動けよ?」


「そりゃ勿論。その上で、デケェだけのカラスなんざ一捻りで片付けてやりますよ」


 大鴉はスピードタイプで防御力は紙耐久。一発殴れば余裕で仕留められるだろうし、そこらの石ころを投げればそれでも簡単に落とせる筈だ。


 大鴉共のいる場所は山に近いそうだし、投げ物の残弾を気にする必要も無いだろう。


「なら、後は何も言う事はねぇな。俺等は何の役にも立たねぇからここで上がらせてもらうが、行くんだったらしっかり勝ってこい!」


「そりゃ当然。群れを全滅させるつもりで派手に暴れてきますよ」


 班長達とはここで一旦別行動だ。幸いにして、ここからなら出現場所の山にもそう遠くなく、少し駆け足で行けば三十分足らずで着くだろう。




 班長の運転するトラックが走っていく姿を見送ると、こちらも山側の自然公園寄りの方向に向かって軽く駆け出していく。


 夜中ということもあって人通りは皆無だが、時折回収車が通りを走る姿も散見される。多分、積み荷は鳥系の妖魔が多そうだな。


「結構騒がしくなってきたが、隊員さん達も頑張ってるっぽいな」


 かなり薄っすらと聞こえてくる発砲音。向こうに合流して参加するより、ボス狙いで単独行動を取ったほうが良さそうだ。


 何せ、向こうの戦場は殆ど鳥撃ち。銃も無ければ投げ物もそこまで多くない市街地より、山中で石ころ拾ってぶん投げる方が戦果を上げられる。


 それだったら、先行して敵のボスをぶっ潰してしまえば、向こうの戦場も指揮するボスがいなくなって大鴉達は大混乱に陥るだろう。


「いるとしたら上の方だよなぁ……」


 馬鹿と煙はなんとやら。お山の大将なのだから、きっと山の上の方でふんぞり返って配下に指示を出している。


 そうでなければ、ここまで山に来られるのを嫌がりはしないような気がする。後、大規模な群れを率いるボスが迂闊に前線に出てくるわけも無いだろう。


 特にカラスの妖魔は狡猾だから、ボスが態々前に出て戦うなんてことは考えられない。



「さぁて、派手に一発ぶん殴ってやるから早う出てこいや」



 ガサガサと獣道を突っ走りながら、時折木々の上に飛び乗って枝を踏み台にしながら山の上の方へ向かって走っていく。


 流石にショートカットまでしているから、登山スピードの速いこと速いこと。もうあっという間に住宅街が遠く離れてしまっている。


 そして、そんな猛ダッシュで登山をしていれば、目的の相手のところまで超速で到着するわけで……







「――――先手必勝ライダーキィィック!!!」






――――ピィィィィィィィィッ!?



 俺は、目の前にいたバカデカい鳥に向かって渾身のライダーキックをブチかましてやった。

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