鉄道

@mokumo1

僕は小湊鐵道に乗った。

初めての乗車だったが、どことなく心地よくて

昔からの馴染みのあるような感じがした。

窓から見える景色はゆったりと流れてゆき、疎に見える紅葉が綺麗だった。

少し肌寒くはあるが、窓から顔を出して風を浴び

ガタンゴトンと揺れるのが気持ち良かった。

窓の外の景色が色づいた頃、僕はリュックサックに入れておいた鉛筆とスケッチブックを取り出して、見えた景色を描いていた。

遥か遠くの方に見える森の緑を見たとき、突然とても大事だったことを忘れてた事に気づいたような感覚に陥り、どうしようもない不安に駆られたが、暫く考えるとそんな不安は絵の中に溶けてゆき、再び筆を走らせた。

目的地に着いた頃には、西陽が傾き、紅葉をより鮮やかに染め抜いた。

両脇に生い茂った草木が生える小川に沿って歩き、山の中の細い道を歩いた。

少し歩くと、そこには東屋があってそこで昼食を取る事にした。

家で作ってきたおにぎりを頬張って、辺りを見渡すと、色鮮やかな紅葉に囲まれている事に気がつく。思わず首からぶら下げていた、一眼レフカメラで写真に収める。

上手く取れたかなと確認すると、

何故か既視感を覚えた。

この配色に、角度。

何処にでもあるような景色で

どこかと間違えたのかもしれない。あるいはテレビ番組で過去に見た写真だったとか。

しかし、どうもそういうわけではない気がする。

僕の全部がそう否定している。ように感じる。

残りのおにぎりを一気に口に詰め込んで、東屋から少し離れて、木造の椅子を被写体に撮った。

何枚も撮り重ね、満足いく写真が撮れたら、次の場所へ行き、満足いくまで写真を撮る。

東屋、丘上のベンチ、蝋燭のような街灯、

一通り写真を撮り終わり、帰りの鉄道乗車口まで歩く道中、1つの影がベンチに差し込んでいる事に気がついた。

「何をされているんですか?」

そう問いかけた後に気づいたのだが、それは人ではなく、木が作り出した影であった。

見直しても見間違えるほど人に似た影ではなかった為、僕がソレを人と勘違いしたわけでもなさそうだった。

それでも、やっぱり人はいなくて不思議であった

そして、影のあるベンチから少し遠ざかって、そこに誰かいるかのように写真を撮る。

帰りの列車で誰も映っていない写真ばかりを確認しながら、車窓に流れる空を眺めた。

しかし、何故かその写真たちにはやっぱり誰かいるような気がして仕方ない。

だって、「誰も映っていない写真ばかり」なんて、まるで其処に誰かいたみたいだ

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