第28話 夏祭り(2)

「山越くん?」


 般若面を取ったら、そこには山越くんの顔があった。


「うん、まさか筒井さんと会えるなんて思ってなかったな」

「私この辺に住んでるんだ。毎年来てるよ」

「へえ、僕は初めて来た。おかげで森浦とはぐれちゃって」

「私も友達とはぐれた」

「そうなんだ。じゃあ、一緒に探そうか」

「今連絡取ってる」

「……その手があったか」


 山越くん、まさか当てもなく森浦くんを探すつもりだったの?


「僕も連絡しようっと」


 山越くんはスマホを取り出し、文字を打ち込んでいる。


「女の子に絡まれてなかったらいいけど……」


 山越くんは持っていた袋にスマホをしまうと、お面を取り出した。

 さっきのおかめ面も、山越くんだったらしい。


「屋台に売ってたんだ。面白いから買った」

「どこに売ってた?」

「奥の方。ラブキュアの面がなくて残念だったけど、その代わり鬼の面とかあったよ」

「へえ」


 あんまり屋台でそういうのって売ってないと思ってた。


「筒井さん、これあげるよ」


 真っ黒で妙な雰囲気のある般若の面を差し出し、山越くんは言った。


「これがあればさっきみたいなやつも寄って来づらいと思うんだ。僕にはおかめがあるから」

「ありがとう」


 山越くんなりの気遣いが、なんだか嬉しかった。


「連絡取れた?」

「まだ……」

「僕もなんだ。絶対ナンパされてるな……」


 スマホで時計を見ると、午後19時40分だった。

 あと20分で、花火が始まる。


「早く合流しないと花火が始まっちゃうね」

「合流できなかったらさ」


 山越くんがおかめ面を被って言った。


「2人で花火見ない?」

「いいよ。でも、ここからじゃ多分見えないね。そうだ、いい場所知ってるんだけど、行こう」

「……うん!」


 私と山越くんは、神社の裏にある小屋へと向かった。

 私がよく知っている穴場だ。


「ここからなら綺麗な花火が見えるよ!」


 私達はこの場所を友達に連絡して、小屋の外に座った。


「本当に人がいない……」

「でしょ?私と弟しか知らない場所なんだ」

「僕に教えてくれちゃって、いいの?」

「いいの。さっき、山越くんは私のこと助けてくれたから」


 山越くんがいなかったら、私は今ごろあの男の人たちに捕まっていただろう。

 そのお礼は、何かの形でしたいと思った。それだけだ。


「花火、始まるね」


 ここに来るまでの道中で買ったいちご飴を2人で食べながら、花火が打ち上がるのを待った。

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