デ・レ・デ・レ〜陵辱系エログロファンタジーマンガの悪役になりましたが、主人公含むみんなをハッピーエンドに導きたいと思います〜

@root0

第1章 早急なクライマックス

第1話 復讐劇に終止符を 1

「アタシはさ、みんなの笑顔を守る英雄になりたいんだ!」


「はい?」


「前にも話しただろ!昔街に魔族が入り込んできてさ。アタシら含めたガキ共が避難に間に合わず殺されそうになった時、あの”英雄ガラシア“が現れて、その魔族をぶっ飛ばしたんだよ!ありゃあシビれるほどカッコよかったよな!」


「いやだからね、何回もその話し聞いたけど、ウチめちゃくちゃチビの時だから知んないって」


「そうだよな〜。お前にも見て欲しかったぜ、あの勇姿をよ。アタシはあの姿を見て、ガラシアさんみたいになりてぇって思ったんだ」


「そんでギルドに入って冒険者になったんしょ?それも耳にタコができるくらい聞いたって。ウチが気になってんのは、なんで改めて”英雄になりたい“とか言い出したのかってコト」


「それはな───意味合いが変わったんだよ」


「意味合い?」


「冒険者になって、色んなとこに行ってわかった。この世には、想像を絶するほどの”闇“が蔓延ってやがる。無垢で無実の人間が悪意の泥沼に浸からされることもザラにある。それを理解せず、呑気に英雄になるとかのたまってたんだよ、アタシは」


「アネキ……」


「けど、今は違う!そういう人たちにちゃんと手を差し伸べられるような、”光の英雄“になる!アタシはそう誓ったんだ」


「……ふーん、なるほどね。まー、なれんじゃない、アネキなら」


「信じてくれんのか、ルティナ?!」


「まーね。ウチが信じず、誰が信じんだっつー話しよ。ウチは一応、アネキのファン一号なんだからさ」


「うぅ……。ルティナ……。お前がアダジの妹で良がっだぜ〜!」


「ちょ、泣きながら抱きつくな!服汚れるっての!」


「ルティナ〜!」


「ったくもう……。ふふ、相変わらずのバカアネキ」





「お姉、ちゃん……?」


 彼方で輝く情景が霧散し、重くなったまぶたを開く。

 視界に映るは、無機質な壁と外界と内界を断絶する鉄格子。歪でどんよりとした空気が流れ、ロウソクの火が妖しく揺れている。


「ここは……。───ッ!」


 動こうとした瞬間、全身に鈍痛が走った。自分の体を見渡せば、所々に流血跡があり、露出している肌の各所には青痣が出来ていた。上にパーカーを羽織っているとはいえ、クロップドシャツにショートパンツという服装のため、余計に傷跡が目立つ。


「は?これ、手錠……?」


 背後を見やれば、両手に灰色の手錠をかけられていた。しかも、ただの手錠では無い。魔力の流れや魔術の行使を阻害する特別性のものだ。


 痛めつけられ、檻に入れられ、手錠をされている。なぜこんな状況になっているのか。痛みが走る頭で考えたが、すぐに答えは見つかった。


 ───そうだ。”蝕む鼠イロード・マウス“という闇ギルドの本拠地を突き止めて、一人で特攻して。けれど、色んな罠が張り巡らされてて、ボスであるボードブとその部下数人にリンチされたんだ。


 気づけばこんなところに。ということは、殺されずに捕らわれたわけだ。しかし、なぜ?




「───なんで殺されなかったのか、疑問みてぇだな」




 一人だと思っていたところで、どこからか男の声がした。驚き、すぐにそちらの方へ視線を向けると、黒いローブを羽織った男がいた。あぐらをかき、私が入れられている檻の外側で鉄格子にもたれかかっている。


 状況から見て、奴は看守といったところだろう。


「ちょっと考えりゃ、わかるだろ?」


 侵入者であり、殺人未遂を犯したウチを生かした理由。そんなもの考えたくもないが、恐らくろくでもないことなのはわかる。


「あんたはとびっきりの美少女だ。その金髪のサイドテールも、透き通った紫紺の瞳も、精巧な人形のように整った顔立ちも、均整のとれたスタイルも。どれをとっても一級品。そんなあんたを見て、ボスは”使える“と判断したわけだ」


 使える───。闇ギルドにとっての女の使用用途なんて───。


「あんたの未来はこうだ。まずあんたは色んな薬を使われて、闇ギルドの忠実なペットになる。そんで、ボスに欲望の赴くままやりたい放題される。ボスが飽きたら幹部達の手に渡り、これまたやりたい放題。そして幹部達も飽きたら、次は闇ギルドと繋がってる変態貴族に高値で売られる。主人が代わるだけで、あんたは性欲処理のペットとして飼われ続けるわけだ。薬も使われてるから思考も感覚もグズグズになって、あまつさえ体はペット扱いに喜んじまう。───立派な”陵辱ヒロイン“の完成だ」


 瞬間、背筋に凄まじい悪寒が走った。男の言葉は妙に実感じみていて、その未来を生々しく想像させる。もしウチがあんな奴らのペットになってしまったらと思うと、絶望と憤怒で己の身が張り裂けそうになる。

 絶対にそんなことになってはならない。けれど、このままではそうなるしかない。自分の無力さに嫌気がさす。


「お姉ちゃんの仇討ち、だっけ。蝕む鼠イロード・マウスのボスを殺すためにここまで来たんだろ?」


 ───そう。二年前のあの夜。ウチが家でアネキの帰りを待っていた時、ある一報が届いた。”アミナ・フォーレルが惨殺された“、と。頭が真っ白になり、膝から崩れ落ちたのを覚えている。アネキのギルドメンバーによると、どうやらアネキは悪事を働く闇ギルドを捕縛しようと動いていたが、その過程で脳と心臓を抉り取られて殺されてしまったとのことだった。

 あらゆる負の感情が胸の内から湧いてきた。悲哀に蝕まれ、後悔に苛まれ、自責に脳を焼かれた。アネキが死んだという事実が、ウチの全てを殺していったのだ。

 そして、残ったのは闇ギルドに対する煮えたぎるような憎悪だけ。

 その後、ウチは故郷を離れ、アネキの元ギルドメンバーの情報を頼りに、闇ギルドの行方を探した。そして遂に、蝕む鼠イロード・マウスという名と本拠地を探り当てたのだ。


「アジトを突き止めるため、相当入念にこのギルドを調査しただろうに。計画無しに単独で飛び込むなんてのは、愚策も愚策だ。ま、早く殺したくてウズウズしてたんだろうけどよ」


 八重歯でグッと唇を噛む。こんな悪党の言葉にも、反論できない。

 早く殺さなければ。拠点を移動させる前に殺さなければ。その顔を拝んで、その臓物を地面にぶちまけさせて、殺さなければ。

 そんな煮詰められた純度の高い殺意が、自分の行動をはやらせてしまった。


「そろそろボスが来る。あんたを慰みものとして使うペットにするために。その”魔封の腕輪“は自分の力じゃ外れねぇし、檻からも出られない。出れたとしても、トラップだらけの中、大量にいる構成員を退けてボスの元に辿り着かなきゃならねぇ。無理ゲーって奴だ」


 男は一度言葉を区切り、僅かにこちらに首を傾ける。


「───それでも、アンタは復讐を諦めねぇのか?」


 男にそう問われ、ウチは改めて自分の想いと向き合った。心の奥底を覗けば、仄暗い灼炎が延々と燃え盛っていた。憎悪という蒔がくべられる限り、この炎が消滅することは無いだろう。


 ならば───。


「例え現状が詰んでて、この先アンタが言ったような未来が待ってるとしても。アネキの仇討ちは、いつか必ず果たす。その為なら、この身もこの命も惜しくないね───!」


 ウチの誓いは譲れないし、崩れない。言葉にして、より一層その意思が強くなった気さえした。


 ウチの言葉を聞いた男は、どこか嬉しそうに笑った。


「……そりゃ、アンタにとっちゃ笑いもんだろうね。カゴに囚われた手負いの動物が、懲りずにキャンキャン鳴いてんだからさ」


「いや、悪い。そういう意味じゃねぇんだ」


 男はスっと立ち上がると、懐から鍵を取り出し、鉄格子の扉を開けた。そして、無遠慮にウチのとこまで歩み寄ってくる。


「く、来んな……!」


 ウチは威嚇しながら何とか後退しようともがく。しかし、すぐに背後に回られ、腕輪を掴まれてしまった。身動きが取れなくなる中、何をされるのかと体を強ばらせていると───。




 カシャン───。




「よし、外れた」


「へ……?」


 急に両手の圧迫感が消失する。急いで確認すると、手首の周りには手錠のあとだけがついている。男は私に付けられていたであろう腕輪をそこらに放り投げた。


「あとこれ、回復魔術の”治癒ヒール“が格納されてる魔道具な。所詮魔道具だから効き目はいまいちだが、かなりマシになんだろ」


 男はそう言って菱形の小さな箱を手渡してくる。それは紛うことなき、回復魔術の魔道具だった。


 全くわけがわからず、ウチは声を上擦らせてしまう。


「あ、アンタ、どーゆーつもり?これもボスの指示?」


「いや、違ぇけど」


「違うって……。アンタ、ここの看守っしょ?」


「看守って、もしかしてこいつのことか?」


 男は檻から出ると、ここからは見えないところから何かを引っ張ってきた。猫のように首根っこを掴まれているのは、顔をパンパンに腫らしたネズミのタトゥーが目立つおっさんだった。今は気絶している。


「え、は……?」


「俺は自分が蝕む鼠イロード・マウスのメンバーだなんて、一言も言ってないぜ?」


 男はそう言うと、長いローブを脱ぎ捨てた。そこで、ようやく男の容姿が視認できる。

 全ての色が抜け落ちたような真白の髪に、ルビーを彷彿とさせる紅き瞳。顔立ちは隅から隅まで整っており、思わず見とれてしまうほどの完成度を誇っていた。

 服装は白いワイシャツに黒のスラックス、肩には黒のジャケットをかけている。しなやかな手には漆色の革手袋がはめられ、首にはリングが通されたネックレスをかけていた。

 カジュアルでありながらも紳士的な出で立ちで、その表情は軽薄ながらもどこか儚げで。

 今まで出会った事がないような不思議な雰囲気を持つ青年だった。


 青年は気絶した男を乱雑に放り投げ、ウチに手を差し伸べた。




「───さて、覚悟も決まってるみたいだし、そろそろ行こうぜ。?」




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