03 奴隷の首輪
「ご苦労だったな」
――豪奢な調度品であしらわれた居間にて。
厚手のソファに座った
繁華街から離れた――貴族ではない富裕層が中心に集う、閑静な住宅街に建てられた屋敷。
そこが俺と
「こちらでも
「それは報酬か?」
仕立ての良いスーツを着た我が主――ザインは灰皿の置いてあるローテーブルの上に、積み上げられた金貨を数えるのに忙しそうであった。
ザインは8年前に俺が殺した当時の裏社会のドンに成り代わり、今や歓楽街の殆どを影から支配する暴力組織の長にして、
今では多数の構成員を抱え込む、国内最大の
歓楽街の支配権と
その2つのビジネスによって得た莫大な富と権力によって、ザインは
「(まあ、
善性を説く宗教団体にして、民を導く政府組織が、
「しかしあのシグフリード相手に、擦り傷一つで生還するとは本当大したものだヨ――ロボ」
「これが擦り傷に見えるんだら、ゴーグルを新調するのを進言するが」
ザインの向かいに座るもう1人の
《
そして――俺の胃袋に無理やり毒液を流し込み、一流の
ザインとホセ――この2人が、
「聖灰でも塗っておけば、キミなら一晩で治るだろうヨ――ほれ」
ホセは粉の入った瓶を俺に差し出す。
S級冒険者の暗殺仕事なんて、成功すれば一生遊んで暮らせるだけの報酬が支払われるのだろうが――悲しいかな我が身分は
一生遊んで暮らせるであろう大金は、目の前で金貨を数えるのに夢中な
残酷なまでに不平等な世の中である。
「それから――早速次の仕事が入った。詳細はホセから聞くといい」
「S級冒険者を殺したというのに、金貨の一枚も寄越さず次の仕事だと? 少しは
「そういうお前はいい加減に主への口の利き方に気をつけろ」
――
「かはっ!?!?」
突如――首に巻かれた首輪が締まり、呼吸が出来なくなる。
「あ゛っ!? お゛ぇ゛!?」
俺はカーペットの上に倒れ、首輪を掻きむしって気道を確保しようと必死にもがくが、首輪には小指一本指しこむ隙間も生まれない。
これが
首輪と
更には主に対して加害行為を行おうとしただけで自動的に起動する優れ物――文明発展に大きく貢献し、人類が豊かな生活を送る一助となる、偉大な発明品の1つである。
なお、ここで言う〝人類〟に
「このくらいにしておきたまえザイン。お気に入りのカーペットが血で汚れてしまうヨ?」
「吠え癖の治らない駄犬の躾をしただけだ」
「ぜぇ……ぜぇ……っ」
ザインが指輪に魔力を流すのを止めると、久方ぶりに肺に酸素が行き渡る。
誰もが恐れる、たった5人しかいないS級冒険者を殺した
その優越感を肴に、ロックグラスに注がれた酒を煽ると、再び葉巻を咥えた。
――ボウッ。
ザインの指先に火が灯り、火の消えた葉巻が再び燃焼する。
ザインは《
「それじゃあ次の仕事の説明をするから――ボクのラボへついてきたまエ」
ゴーグルで目を防護した老爺――ホセは席を立ち、地下へと続く階段の扉を開ける。
結局俺には報酬の金貨は1枚も支払われることなく、ゆっくりと立ち上がり、ホセの後に続くのだった
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【あとがき】
今回のAIイラストはロボの主、ザインです。
https://kakuyomu.jp/users/nasubi163183/news/16818093086962578464
【用語解説】
・クレシエンティア
本作の舞台となる国の名前。
女神崇拝の一神教、ルナルシア月教を国教と定め、教皇が統治する宗教国家。
・エル・オロヴェ
本作の舞台となる街の名前。
クレシエンティアの首都。
肥沃な農地、金山、地下ダンジョンと、資源に恵まれた黄金の都。
・
摂取することで大量の快楽物質を分泌させ、強い依存性から禁止薬物に指定された幻覚剤。
・ロス・アラクラネス
エル・オロヴェを蝕む
歓楽街の実質支配者でもある。いわゆるマフィア。
その他、世界観設定、用語など、説明不足と感じた点がありましたら、コメントに書き込んで下さると幸いです。
補足させて頂きます。
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