創作研究レポート

野志浪

「設定」について

エイブラハム・リンカーンはこういった。


『私が木を切る仕事に10時間を与えられたなら、8時間斧を研ぎ、残りの2時間でそれを振るう』


何かを完成させるプロセスは、序盤ほどその先の運命に大きく影響し、終盤ほどピボットが効かなくて一度生まれた流れに逆らえない、という意味だ。


発想→構成→推敲→修正

というプロセスを経る創作という分野においては、最初の発想が物を言うのではないかと考える。


例えば、私が今パッと思いつく優れた発想の作品は次のようなものだ。



・るろうに剣心(和月伸宏)

幕末に恐れられた最強の人斬りが、幕府の終焉とともに忽然と姿を消す。

明治維新、なぜか浪人として人里に戻ってきたその男は、「逆刃刀」という刃が逆向きについた奇妙な刀を携帯し、今度は不殺の誓いを以て、幕末の残党と刀の時代にケリをつけようとしていた。


・どろろ(手塚治虫)

戦国時代、父親の野望と引き換えに48体の魔像に体を食われた男が、カラクリの義体を手に入れて旅に出る。失った肉体を取り返すために魔神たちを探して倒し続けるも、そのたびに魔神との契約が壊れて世の中は荒れ、男は忌み嫌われる修羅と化す。



……天才である。もうおもろい。

こういった作品は、が既に面白いのである。

これはつまり、最初の「設定」が桁違いに上手くいっているからだ。


では、面白い設定とは何だろうか?

これは、既に「面白い」と言われている作品たちのビッグデータから分析すれば、具体的な要素が抽出される。

私は今まで自分が読んできた作品から、いくつかの条件を観測した。


四天王を倒す、七つの魔剣を集める…。

設定に『数字』が出てくると面白い。

ゴールデンカムイの序盤、網走監獄から脱走した24名の囚人と「入れ墨人皮」の話を聞かされた読者は、①捕らえて書き写すか②殺して皮を剥ぎ取るか③仲間にして連れ歩くか、という3択を想像をして、これから出会う24名との戦いや駆け引きに期待するだろう。

数字があると、「そのインデックスをコンプリートさせる」という分かりやすいストーリーラインが提供できるため、「いつ終わるんだこれ」という読者の離脱心を阻止できるのではないだろうか。


戦争で失った片腕、契約によって制限された能力。

『マイナスからスタートする』と面白い。

魔王が人類に危害を加えなければ勇者が旅をする理由がなくなるのと同じように、マイナス条件というのは、それを「解消する」あるいは「克服する」プロセスで物語を作りやすい。

また、その制約によってキャラクターたちの振る舞いに駆け引きやトリックを採用でき、細かいシナリオも工夫できる。



このように、面白い作品というものはただ漠然と面白いのではなく、何か理由があってヒットしているのだろう。

そして創作初心者である私にとって最も重要な事実は、「要素の抽出さえできれば転用ができる」ということである。


私の本職は演奏家だ。私は音大を卒業しているが、作曲は専攻していないので、作曲法の基礎はない。

だが、何か作曲しろと言われれば一応できてしまう。

それは、作曲というものが、演奏と違って「技術」ではなく「知識」のトレースだからだ。

長調のメロディにマイナーコードを多用すると切ない感じになる。

主音ではなく第3音でメロディを始めると滑らかな歌いだしになる。

これはただ、「知っている」だけで再現可能だ。この過程において必要な技術面というのは、作曲ソフトをいじくるパソコンの操作ぐらいなのだから。


つまり創作というのも同じで、ペンが握れるかタイピングができれば、残りはすべて「知識」の問題だ。

自分が良いと思った作品がなぜ良いのかを分析し、要素に分解し、各パーツの機能だけ仮説を立てられたら、今度はそれを自分の作るロボットに埋め込んで試運転するだけだ。



私が初めて執筆した「ミリオンデッターズ」という作品も、ほとんどこの発想で仕上げている。

この作品のコンセプトは、「青年向けの皮を被った少年向け」と最初に決めた。だから、設定の各要素は既存の少年マンガから転用している。


・解散した4人の仲間たちを再集結

バンドメンバー→七つの大罪(各メンバーの回収)


・同期3人組

タコ部屋トリオ→ナルト(スリーマンセル)


・キャラクターの固有能力と属性

動物占い→鬼滅の刃(呼吸)


・強さの階級制度

タイトル→ワンピース(海軍本部の将校)


この作品は私の中で「バトルマンガ」としていて、拳のぶつけ合いの代わりに、会話のぶつけ合いをやっているだけだ。

この他にも、バトルロワイヤルや敵組織のボス戦、ピンチのときに助けに来る強力な味方など、ガッツリそのまま少年マンガで使われるパーツを組み込んでいる。

大して文学の勉強もせず、基礎が固まっていない今の私にできるのはこれだけなのだ。


これが第三者目線で上手くいっているのかどうか、筆者自身には定かでないが、カクヨムで活動している作家さんたちのフィードバックから検討していけば、また新しい発想が生まれるかもしれない。





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