第27話

 寝室のベッドがツインではなく、キングサイズのベッドひとつなのを目にした紗英は、どきりと胸を弾ませた。

 もしかして……悠司さんは私との夜のために……?

 期待してしまうなんて、はしたないとわかっているのに、胸のときめきを止められない。

 けれどベッドの前まで運ばれて、すとんと体を下ろされた。

 なんだか拍子抜けしてしまい、紗英はぱちぱちと瞬きを繰り返す。

「あ、それでは……お風呂のお湯を入れてきますね」

「待った」

 バスルームへ行こうとすると、腕を取られる。そのまま搦め捕られて、逞しい体に抱きすくめられた。

 解放されたと思ったら、悠司の熱い体に抱きしめられて、紗英は混乱する。

「今日一日中、我慢してたよ。紗英にキスしたくて、たまらなかった」

「え……あ、ん」

 情熱的な台詞とともに、熱いくちづけが降ってきた。

 頤を掬い上げられて、濃密に唇を重ね合わせる。

 チュ、チュと淡い音色が鳴ると、すぐにくちづけは深いものに変わっていった。

 悠司の雄々しい舌が唇の合わせをノックする。彼に応えて、紗英は薄く唇を開いた。

 すると、ぬるりと獰猛な舌がもぐり込み、舌根をくすぐる。

 絶妙な舌技で紗英の舌は瞬く間に搦め捕られて、敏感な粘膜が擦り合わされた。

「んん……ふ、ん……」

 チュ、チュクと濡れた音が静寂なスイートルームに響き渡る。

 濃厚なキスに頭が痺れて、ぼうっとする。

 唇が離れると、互いの口端を銀糸がつないだ。

 悠司は真摯な双眸で紗英を見つめる。

「抱きたい。きみが可愛すぎて、もう抑えがきかない」

「あっ……ん」

 ベッドに押し倒されて、服を脱がされる。

 獰猛な猛獣のように求められて、紗英の胸は昂揚した。

 キャミソール姿になった紗英を腕の檻に囲い、悠司は独占欲を滲ませて呟く。

「きみは、俺のものだよ」

 チュと頬にくちづける唇は、どこまでも優しい。

 ベッドに手をついた悠司に、情欲に濡れた双眸を向けられる。

 こくん、と紗英の喉が鳴る。

 彼に抱かれたい、と心が求めているのを、はっきりと感じた。

 極上の獲物を捕らえた悠司は、首筋を甘噛みしながらキャミソールを脱がしていく。

 さらにブラジャーとショーツも剥ぎ取られて、素肌が曝された。

 全裸の紗英を、悠司は炙るような目線で眺める。

「あ……やだ。恥ずかしい」

「すごく綺麗だ。まるで愛の女神のようだね」

 甘く掠れた声で褒められて、紗英の胸は、きゅんと高鳴る。

 私……悠司さんが好きなのかな……。

 彼に激しい愛撫をされて、体は喜んでいる。

 キスマークをつけられた体の至るところが、甘く疼いてたまらない。

 彼を受け入れると、壮絶な快感が湧き上がり、甘く蕩けた紗英の肌が艶めいていく。

 ふたりは何度も達して、極上の快感を味わった。

 愛に溢れた行為を終えると、悠司は後始末を済ませる。

 それから彼は、紗英の頭の下に強靱な腕を差し入れて腕枕をした。

 彼は爽やかな笑みを見せて、乱れた紗英の髪をかき上げる。

「好きだよ」

 そのひとことに、紗英の胸がずきんと痛んだ。

 悠司さんは、ベッドをともにした相手への礼儀として「好き」と言っている……。

 それがとてもつらい。

 でも、もしかしたら違う意味かもしれない。

 初めに取り交わした『勝負』に勝つために、紗英の気を引こうとしているかもしれないのだ。

 どちらにしろ、本当の意味での『好き』ではない。

 紗英を嫌いとは思っていないまでも、本物の恋人にするほど好きではないのだから。

 だから、かりそめの恋人なのだ。

 紗英は自分の立場をよくわかっているつもりだった。

 もう恋なんてしないと決めたはずだった。

 それなのに、悠司と体を重ねたあとに「好き」と言われて、こんなにも傷ついている自分がいる。

 その顔を見られたくなくて、ぷい、と横を向いた紗英に、悠司は訝しげな目を送る。

「どうした。体が痛いのか?」

「……違います」

「機嫌を直せよ。キスしよう」

 そう言って、紗英に覆い被さってきた彼は頬にくちづけする。

 紗英はさりげなく腕を伸ばして、キスを拒否した。

 嘆息した悠司は、紗英の考えを証明するようなことを言った。

「まだ俺に甘えられない?」

「勝負のことですか……」

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