PATRICK 〜歪んだ欲望〜
@Adam415
第1話 Becoming PATRICK ~パトリックになるまでの過程〜
ピロリロリン、ピロリロリン、ピロリロリン、ピロリロリン
携帯を見る。5km 300円の配達依頼。
「…行くわけねーじゃん。」拒否の×印を押し、読みかけの本に目を戻す。
ピロリロリン、ピロリロリン、ピロリロリン、ピロリロリン
また携帯を見る。 今度は6.5km 680円の配達依頼。
「はぁ埼玉行き?ないわ~。」拒否。
ピロリロリン、ピロリロリン、すかさず次の配達依頼が画面に映し出される。
1.3km 320円の依頼。
「….マックか、、、ミツオ(320)、、、まぁ行くか。」
私はぶつぶつ言いながら自転車にまたがり、すぐ目の前のマックに向かう。この仕事は独り言が増える。
マクドナルドは、平日昼にもかかわらず行列ができており、日本人がいかにマック大好きかを日々痛感させられる。
「 あ、お世話になります、パクパクEatsで~す!」
もう何100回言ったかしれないおきまりのフレーズでカウンターに向かう。
「番号」
帽子をかぶったなにやらマネジャーっぽい男がこちらを見ることもなく言う。
「あ、TK74Eです」
このすぐ冒頭に「あ、」っていう癖直したい。
男は、カウンターの端にできていた袋を無言で面倒臭そうにこちらに差し出す。
「、、、お預かりします」
私は袋を受け取ると低い声でそう言って外に停めてある自転車まで戻った。
「、、、なんやねん今のジジイ。マジなめんな」
また独り言を言いながらパクパクEatsと書かれたでっかい四角いカバンに袋をいれる。倒れないようにあらかじめ入れてある大きいスポンジで隙間を埋める。
そして「受け取り完了」をスワイプし、画面に映し出された配達先へと向けて自転車を漕ぎ出す。
私が パクパクEatsを始めてもう1年以上たつ。
始めたてのときは、全てが新鮮で、自分の好きな時に好きなだけ出来て、うるさい上司も意地悪な同僚もいない、しかも運動しながらお金を稼げる!と日々颯爽と自転車を漕いでいた。
しかし、度重なる理不尽な報酬引き下げ、飲食店からのまるでゴキブリでも追っ払うかのような扱い、雨の中ずぶ濡れで自転車こいで商品届けてもチップがつかないどころか「配達が遅れた」と客にいただく低評価、、、、私の心は日々荒んでいった。
ああもう嫌だ、ちゃんとした仕事を探そうと思っても、ろくにスキルもない43歳のおばさんを雇ってくれる求人が日本でそうそうあるわけもなく、得意の英語も流行りの感染病で鎖国状態が続き、すっかりいらないスキルに成り下がり、なんとなく小銭が稼げてしまう パクパクEats を文句を言いながらダラダラと惰性で続けて、まさに貧民層そのものの収入で細々と生きていた。
そんなある日、とある駅構内にあるスタバにピックアップに行き、案の定どこかわからないで迷っているとき、駅構内にある一つのゲームの広告が目に止まった。
実名は避けたいが、ゲームの名前を出さず進めていくのもなんだか変なので、とりあえず「 Fantastic Story(仮)」ということにする。略してファンスタ。目に止まった理由は、そのゲームのキャラデザが自分の好みだったからだ。
昔からゲームが好きで、なんだかんだいろんなゲームをやってきており、その時も パクパクEats をやりながらドラゴンクエストウォークを同時に稼働したりしており、日々 iPhoneのバッテリーの減り具合は凄まじかった。
そのゲームは、 MMORPG ( Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)で、キャラクターの種類はソードマスター、パラディン、レンジャー、ウィザード、アサシンの5種類で、私はソードマスターの見た目が気に入り、自分は絶対このキャラで始めよう!と固く誓ったのであった。
家に帰った私は早速ファンスタをインストールし、データのダウンロードを始めた。
MMORPGは、存在は知っていて、興味はあったがあまり手をだせていない領域のゲームだった。
10年以上前に「Pocket legends」とかいう 多分MMORPGだったゲームを一時期プレイしたことがあったが、ものすごくのめり込んだのを覚えている。全く知らない自分以外のプレイヤーが、 NPCではなく、すぐそこにいて一緒に戦ったり、チャットできたりというのはなかなか面白いものである。
Loading.......
ダウンロードが完了し、私はソファに座ってワクワクしながらゲームを始めた。
とても綺麗なグラフィックは、私のワクワクをさらに加速させる。
チュートリアルと思える、ストーリーが始まった。 ひたすら画面をタップして進める。
MMORPG、というかゲームのストーリーなんていつもなんちゃら王国で魔物が大暴れで選ばれた戦士が伝説のソードで、、、、と、お決まりなので、そういうストーリーを10代の頃から嫌と言うほど見てきた43歳はそれ系はもうお腹いっぱいなのである。なのでストーリーなんていつもすっ飛ばしてプレイしている。
さあ、ついにみんな大好きキャラメイクをする時がきた。
私は初見で決めた通り、超絶イケメンのソードマスターを選んだ。キャラメイクはそれほど細かくはできないけど、自分にとってはこれくらいでちょうどいい。
イケメンであり、なおかつ典型的な王子様みたいなキャラにしようと思い、目の色はブルー(なぜか目の色左右違う色に変えられるようになっていたけど、ゲームの世界ってほんとオッドアイ好きよねw と思いながら両目ブルーにした。)髪の色はいろんな色があったけど、とりあえずスタンダード王子様な金髪、体格はもちろん一番長身で、できるだけがっしりさせた。
次に、名前を決める。
ここで私は、ふと「外国人という設定でやってみようかな、、、?」と思いたった。
どうせなら、この超絶イケメンキャラを地で行くようなイケメン外国人、という事にして、基本英語だが、それではコミュニケーションとれないので、日本大好きで日本語勉強してて日本語少し話せるイケメン外国人、、、、ええじゃないかぁ~~!
私は自分の思いつきに興奮しながら、さてなんていう名前にしようか、と考えを巡らせた。
MMORPG は、自分の名前が他のプレイヤーと被ることはまずないようになっているので、とりあえず思いつく名前を入れてみた。
「Clifford」ー『その名前のプレイヤーは既に存在します』、、、「え、ほんとに!?」私は口に出して驚いた。私の他にも Clifford the Big Red Dog が好きな人がいたのか。
「Freddie」ー『その名前のプレイヤーは既に存在します』、、、フレディーマーキュリーは流石に人気か。
「Freddy」ー『その名前のプレイヤーは既に存在します』、、、ちっ、スペルを変えてもダメか。
「Harvey」ー『その名前のプレイヤーは既に存在します』、、、ここにも [SUITS]ファンがいたか。
多分後ろに 「 Freddie79」みたいに番号入れたらいいのだろうけど、できるだけシンプルにしたいという変なこだわりがあった。
「Jacob」ー『その名前のプレイヤーは既に存在します』、、、 [Jacob’s Ladder] 人気すぎだろw。
「Anderson」ー『その名前のプレイヤーは既に存在します』、、、これ日本のゲームだよね? 英語名使われすぎてない?
「 Spiderman」ー『その名前のプレイヤーは既に存在します』、、、 Marvel fanもいたか。
いい加減ネタがつきてきた頃、
「 Patrick」ー『Patrickでよろしいですか?』
「お!!!!」
以外にもダメ元で入力したよくありそうな名前が通った。 私は即座に「はい」をタップした。
ここに、イケメンソードマスター、カタコト日本語のまさかの中の人もイケメン外国人プレイヤー、Patrickが爆誕した。
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