満腹アウモ
食後、訓練所に行くとまあ、えげつねぇ。
昨日の地面は石畳が取り外して脇に重ねられており、端の方に並ぶ魔術師たちが風魔法を展開。
アウモがバンバン放たれた風の攻撃魔法をぱくん! ぱくん! とジャンプして食べていく。
なんだこの光景。
すごい光景だな。
「はあ、はあ、はあ……! さ、さすがは妖精竜様だ。お、俺たちの攻撃魔法が一瞬で喰われる……!」
「こうなったら合同魔法をやるしかない!」
「ああ! いくぞ!」
「え? あの、ちょっ……ちょっと?」
なんかマリクが慌てて声をかけているように見える。
一度エリウスと顔を見合わせてから、魔術師たちとマリクのいる方に小走りで近づく。
五人の魔術師が円陣を組み、杖を空へ掲げ魔法陣を繰り出す。
二重、三重……四重、五重の魔法陣!?
「ちょちょちょちょ……!? なん……!? なにやろうとしてんのあれ!?」
「ご、合同魔法を使おうとしてるよね? え!? ここで!?」
さすがのエリウスも慌て始める。
合同魔法は一人の魔術師では不可能な大規模、高火力、広範囲に効果をもたらす魔法のこと。
大量の魔物を一掃するときに用いられ、当然、こんな狭くはないが広くもない、なんなら王都の一部であるこんな場所で展開発動していい代物ではない。
それをまさかアウモにかますつもりなのか!?
「マリク! 止めろ!」
「お、おい! あんたら! さすがにまずいって!」
「行くぞ! 合同魔法!」
まずい! もう発動に入っている!
エリウスもそれを察して俺の肩を掴むと廊下の端に押しつけ、訓練所に向けて魔防御壁を展開した。
「「「「「サイクロン!!」」」」」
五人の魔術師が叫ぶ。
暗雲が立ち込め、雷を纏いながら巨大な竜巻が発生した。
竜巻は周辺の風を取り込みながら、ますます大きくなっていく。
いや、いや、う、嘘だろ……! もっと大きくなるのか!?
人や物が吸い込まれないのは魔法だからだろうけれど、それがアウモに向けられていると思うと生きた心地がまったくしない……!
「アウモ……!」
エリウスの魔防御壁の隙間から、アウモの方に手を伸ばそうと――した。
だが、アウモは目をキラキラ輝かせ、涎を垂らしながら翼をはためかせた。
「「え?」」
どうやら俺と同じくエリウスもそんなアウモを見てしまったのだろう。
同時に気の抜けた声が漏れる。
アウモはあの強風をものともせず、巨大な竜巻に向けて飛び込んだ。
風の刃で斬り刻まれる、恐ろしい攻撃魔法のはずなのに、ギュルギュル音を立てながら風が口を開けたアウモに集結していく。
さすがのアウモも口を開けたまましばらくの間、宙で静止。
五分ほどであの強風は微風に変わり、薄暗かった空は晴れ渡り、アウモが美しい晴天に仕上がったあとに降りてきた。
「げぷぅ」
「ア、アウモ! 大丈夫か……!?」
「ぱぁあーう!」
げぷうっていった……?
駆け寄るとアウモも嬉しそうに駆け寄ってきた。
「ぱぁうぱぁう」
「え? お腹いっぱい? ……お腹いっぱいになったのか……?」
「ぱぁう!」
「アウモのお腹がいっぱいになったのか!? ……えええ?」
俺だけでなく、エリウスも目を丸くする。
俺に抱っこをせがむアウモを抱き上げて、魔術師たちの方を見ると――[サイクロン]の魔法を使った五人の魔術師がへにょへにょと地面に座り込む。
他の風の魔術師も顔を見合わせ、数人が俺たちに近づいてくる。
「アウモ様は満腹になられたのか?」
「そ、そのように言っています」
「なんでだ? 昨日は我々全員の魔力が尽きるまで魔法を使っても、満腹にはなられなかったのに……」
「おそらく合同魔法の魔力量が、単身の魔法よりも多かったからだろう」
「いや、もしくは合同魔法により周辺の無属性の自然魔力も纏い、増やしたからではないだろうか」
「そうか、[サイクロン]で無属性の自然魔力を引き寄せ、それも取り込まれていたから……」
と、色々話が盛り上がり始めた。
なんにしても、アウモは今、お腹いっぱいになったらしい。
満足そうに唇をぺろぺろしてから、アウモは俺の胸に頭を乗せて目を閉じるとモゾモゾしながら眠りに入る。
満腹でお昼寝を始めてしまった模様。
「満足……したのかな?」
「どうだろう? 一度の許容量がいっぱいになっただけかも。それがどのくらい保つかどうか」
「そうか、腹は減るもの……また必要か」
「だが、五人の合同魔法ならばアウモ様の腹を満たせることがわかった! また昼食、まかせろ!」
と、親指を立てる魔術師たち。
な、なるほど?
……いや、でも……もしかして、また[サイクロン]級の風の合同魔法を、この狭くもないが広くもない訓練所でかますつもりか?
思わずエリウスを見上げてしまう。
「あ……えーと……合同魔法ならば、というのはわかったのですが……さすがにここであの規模の魔法は……」
察したエリウスが訓練所を見渡しながら、魔術師たちに察してアピール。
魔術師たちも、マリクも顔を訓練所に顔を向けたあと無言で顔を見合わせ合い、こっちを見て「へへ……」と笑う。
いやいや、木々とか引っこ抜けかけているし、打ち込み用カカシはへし折れたりどっか飛んでっているし、脇に退けられた床石のタイルはあっちこっちに散らばっているし、壁にも大きなヒビがあちこちに……!
騎士舎の壁にもタイルが突き刺さっているじゃん!
人的被害が出てないのが奇跡的だし、人的被害が出てなくても被害は出てるよ!
笑えない笑えない!
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