父と対談
ディックに発破をかけられて、色々しっかりと手を回しておかなければならないと考え直す。
まず、帰宅後に父へ面会の申請。
あの人、最近は自宅ではなく女性伴侶のセアリア夫人の体調が優れないと別宅に入り浸っている。
マロネスさんもお見舞いに行っていると言っていたから、本当に体調が悪いのだろう。
俺はセアリア夫人にあまり好かれていない――当たり前なのだが――から、会いに行くのは控えている。
なので、リーセンディールに面会の申し入れをして父上の都合のいい日を知らせてくれるので俺もそれに合わせて時間を作るとして。
あとは騎士団の団長、副団長にも話を通しておきたい。
城の方から手出しがあれば、先んじで教えてもらえるように。
こちらの迎撃準備が整うまでの時間稼ぎなども頼みたい。
はぁ、まったく本当に俺は、バカだ。
うじうじ悩んで、フェリツェとの関係の変化ばかり考えて。
せっかく王家の血筋を引いて生まれ、前王の息子としての家格も手に入れたのに後手に回っていた。
いくら後天的な貴族だからって、自分にできることをこうも見失っていたなんて!
大事な人を守る力があるのに、それに気づかずいたなんで。
周りがみんな俺の気持ちに気づきつつ見守っていてくれたのは、きっと俺が“貴族の俺”ならフェリツェを守り、妻に迎えることが難しくないと思っていたからだろう。
俺はそのことを、別の意味で考えていた。
なんという間抜け!
「――というわけで、父上。俺はフェリツェとアウモを守りたい。後ろ盾になっていただきたいのです」
父との面会は翌日の朝。
かなり早く応えてもらえたおかげで、朝食を食べながら話をすることができた。
まどろっこしいのは苦手なので、はっきり伝えると目を見開かれ、すぐにクックッと笑われる。
「貴族としては10点だな」
「貴族としてではなく父子として頼んでいるのです」
「ほう……お前を引き取って十年、初めて可愛いことを言ったな。そうか、マロネスが言っていた妖精竜とその卵を拾って育てている騎士。お前の幼馴染の青年とは聞いていたが……本格的に伴侶として迎えたい――ということだな?」
「はい」
真っ直ぐに見据えて頷く。
父は楽しげに喉を鳴らして「そうかそうか」と笑う。
「だが、今ひとつ甘い」
「甘い、ですか?」
「お前が妖精竜を育てる“親”を妻に迎えると、王位継承権順位が変わる」
「っ……!?」
目を見開く。
俺の王位継承権順位は王子三人、叔父のその下。
アウモを育てるフェリツェと結婚したら、一気にその順位が第四位――今の叔父の上の位置まで上がるという。
それでもちゃんと王子としての教育を受けている第一から第三王子の王位継承権が優先されるが、将来性を加味して繰り上がるだろう、ってことらしい。
うええ……。
「だが、神の幼体を守るためには必要な処置だ。お前の地位が高ければ高いほど、他国からの手出しが難しくなる。しかし……言い出すのがあと一ヶ月遅ければ第一王子リレイザの男性妻としてほぼ強制的に決定していただろうな」
「ええ……!?」
「もちろんまだまだ様子を見る必要はあるが、妖精竜がフェリツェくんを親として認めて懐いているのはまず間違いない、という報告を受けている。相手が神ならば、是が非でも王家に迎えたいのは国を守る者として当然のことであろう」
「そ……それは……」
やはり裏で動いていたのか。
父はここまで話しつつ「お前が今言い出してくれたおかげで、私も動きやすくなる」と紅茶を口に運ぶ。
始終楽しげなのが、なんとなく面白くない。
というか、第一王子リレイザは十七歳だろう?
いくら男性妻とはいえ、年齢差があると思うのだが!
「国としては今のところなにがなんでも風の妖精竜様に滞在していただきたい。なにかしらの利益が得られるものと考えているからだ。逆に囲ったあとに、妖精竜様がいることで国益を損なうようなことがあれば、申し訳ないが
「父上……」
「無論、そうならないのがもっとも好ましいが、そこまで考えているはずだよ」
誰が、とはあえて言わないのが元国王らしい。
……だが、そこまで考えていなかった。
そうか、その可能性もあるのか。
父上はさらに「他国に奪われる可能性は婚姻だが、それ以外にも誘拐の可能性がある」と目を伏せながら腕を組む。
そこは騎士であるフェリツェが“親”なのは守りの意味でも好都合。
また、なんらかの不益につながることがあれば孤児出身の平民騎士、しかも魔力なしのフェリツェは容易く切り捨てられる、実に都合のよい存在。
「お前は怒るだろうが、彼の立場は国として非常に都合も使い勝手もよい。孤児院のことを引き合いに出せば、脅すことも簡単だ。それを阻むのに、お前を引き取ってからあの孤児院に援助をしていた私は手も口も出しやすい」
「っ……」
「今まで私が援助していた件や、立場を使って彼を守るも囲うもお前次第。手を貸せというのなら事前に相談しなさい。お前はどうもまだ、脇が甘い」
「うっ……」
ド直球が悪かったのか、父はまだ口元を緩めて新しく運ばれてきた食事を食べ始めた。
考えなければならないことがまだある、ということか。
ぐう……俺はまだまだ貴族としては未熟ってこと、だよなぁ!
「わかりました。相談させてください。ただ、フェリツェを俺の妻にする件、父上は反対されないということでよろしいですね?」
「無論」
ニィ、と笑みを深める父。
その答えに安堵したような、しないような。
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