第8話 商会での一時
私は、父に婚約破棄の報告をした翌日、ルーセント商会の建物に来ていた。話したいことがあると事前に伝えたら、ウィルフレッドからいつでも来ていいという返事が返ってきたので、すぐに向かったのだ。
建物の前には、ルーセント商会のスタッフが何名か待機していた。
「ようこそ、エリザベートお嬢様」
「出迎え、ありがとう」
いつものように丁寧に歓迎される。業務の邪魔をして申し訳ない気持ちになるが、ちゃんと出迎えないと失礼だからという理由を説明されて、彼らの気持ちを受け取りながら、建物の中に入っていく。
案内された部屋に入ると、ウィルフレッドが待ち構えていた。ルーセント商会の長になって仕事も多く、ちょっとの時間を確保するだけでも大変だと思う。なのに、わざわざ会うために時間を空けてもらって申し訳ないと思う。
そんな私の気持ちを察しているのか、彼も私に用事があったから来たと理由を用意してくれていた。これはきっと、彼の気遣い。
「よく来たね。ちょうど、新しい商品が完成したんで、君にもチェックしてもらおうと思ってね」
「そうなの? どれどれ」
ということで早速、新しい商品を見せてもらうことになった。席に座るなり目の前に出されたのは、アイスクリームだった。
「新しい味を用意した。これで10種類目かな」
「もうそんなに開発したのね」
アイスクリームもルーセント商会では人気の商品だった。商会が経営している酒場や飲食店、カフェなどで出されている。様々な味を用意することで、何度でも食べてみたくなるキッカケを生み出し続けている。
薄いピンク色の見た目はキレイだと思った。スプーンを持って、食べてみる。甘くて美味しい。そして、冷たい。
「これは、ララスサの味だね」
前の世界では聞いたことがない、この世界特有の果実だ。もしかしたら別名で存在したのかもしれないけれど、その味がした。
「そうだ。ルーセント商会で仕入れている果実が余り気味で。使い道を探していたんだよ。それで、味はどうかな?」
「美味しいと思う。ただ、もう少し甘みをまろやかにして、酸っぱさを出ないようにしたほうが私の好みかも」
「なるほどね」
思ったことを遠慮なく言う。私の意見を参考にするときもあれば、スルーされることもある。その判断は、ウィルフレッドがしていた。必要なのか、不必要なのか。私は思ったことを素直に言っているだけだ。
「で、今日の用件は?」
2人で一緒にアイスクリームを食べながら、会話を続ける。私がウィルフレッドに会いに来た理由を聞かれた私は告げる。
「実は、婚約を破棄されたの」
「……おっと、それは」
思わせぶりにしたり引っ張ることでもないので、サラッと言う。それを聞いて驚くウィルフレッド。私は、彼の反応を見ながら、今の心境について彼に話し始めた。
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