第5話 商会の飛躍
その後、リバーシの人気は驚くほど高まっていった。酒場だけでなく、街中ではリバーシの対戦が行われるようになり、老若男女問わず多くの人々が楽しんでいた。
ルーセント商会のリバーシセットは、品質の高さと丁寧な作りが評判となり、多くの人々から支持を得ていた。おかげで、売上は順調に伸びていった。
しかし、そんな中で問題が起きた。リバーシの人気に目をつけた他の商人たちが、次々と模倣品を出し始めたのだ。品質は劣るものの、安価な価格設定で売り出されるそれらの商品は、徐々に市場を侵食していった。
ルーセント商会のブランドは、依然一番の評価を得ていたので、売上が大きく落ち込むことはなかった。しかし、売上の伸びは以前ほどではなくなってしまった。
模倣品を止めることは、現状では難しい。そこで、ウィルフレッドから次の一手をどうするか相談された。
「エリザベートお嬢様は、何かいいアイデアはありませんか?」
彼の言葉に、私は少し考えた。前世で遊んだゲームを思い出す。そして、リバーシと同じようなボードゲームを提案してみた。それから、他にも色々な遊びについて適当に話していく。
「そうね。こういう遊びがあるのだけれど」
チェスや将棋といったボードゲーム。ルールをそんなに覚えていないので、こんな感じだったかなと思い出しながら話す。それから、すごろくにヨーヨー、メンコとかけん玉など、思いついたものを話してみた。
「なるほど! 参考にさせてもらいます」
ウィルフレッドは興味を持ったようだ。かなり感謝されたが、私は前世の話をしただけ。彼は早速、私の話をヒントにして新商品の開発に取り掛かったようだ。
数週間後、様々な遊び道具が完成した。デザインも洗練され、品質も申し分ない。ただ、私の知っているチェスとか将棋のルールとは少し違っていた。私が完全に伝えられなかった部分を、ウィルフレッドが補完してくれたようだ。
これらを、リバーシと同じように酒場に置いてもらい、プレイの方法について教えるスタッフも配置した。対戦形式のイベントも定期的に開催するようにしたらしい。
すると、これらのゲームも徐々に人気が出てきた。特にチェスに似たゲームは、戦略性が高く、多くの人を魅了した。リバーシファンにも好評だった。
これらの新商品が、リバーシの売上の鈍化を補う形となり、ルーセント商会の業績は再び上向きになっていった。
そんなある日、ウィルフレッドが嬉しそうな顔で私に報告してきた。
「エリザベートお嬢様、良いニュースがあります」
「何かしら?」
「我が商会で取り扱っているゲームの数々が、とても評判になっているんです。そこで、遊技場を作ってみてはどうかと」
「遊技場?」
「はい。ゲームを楽しむための専用のスペースを設けるんです。酒場とは別に、誰でも気軽に立ち寄れる場所を作るのはどうでしょう」
なるほど。専用の施設があれば、もっと多くの人にルーセント商会の作った遊びの商品を楽しんでもらえるかもしれない。なんとなく、前世であったゲームセンターを思い出した。あんな感じなのかしら。
「いいアイデアだと思うわ。ぜひ、やってみましょう!」
こうして、王都の中心部に第一号となる遊技場がオープンした。広々とした空間に、たくさんのテーブルが並べられ、それぞれのゲームコーナーが設けられている。スタッフも充実していて、初心者でも気軽に遊べる環境が整っていた。
オープン当初から連日多くの人で賑わい、ゲームを楽しむ笑顔があふれていた。遊技場は大成功で、ルーセント商会の名は王都中に知れ渡ることになった。
やがて、王都だけでなく他の街にも遊技場を展開していくことになる。どの遊技場も大盛況で、ルーセント商会は業績を大きく伸ばしていった。
そして、中小商会と呼ばれていたルーセント商会は、いつの間にか大商会へと成長を遂げていた。それに伴い、私の資産も大幅に増えていった。
これで、私の望みでもある平穏で安定した暮らしを手に入れられたわ。この先も、経済的な不安はなさそうだ。
そんな中、私の耳に驚くべき話が届いた。父に呼び出されて、私はその話を聞くことになった。
「エリザベート、お前に縁談の話が届いている」
「縁談? お相手は、どなたでしょうか?」
一番気になることを聞いてみると、父が答えた。
「アレクサンダー王子だ」
「えっ!? アレクサンダー王子から?」
その知らせを聞いて、私は面倒だと思った。私が望んでいる、平穏で安定した暮らしの邪魔になるかもしれないと思ったから。
まさか、アレクサンダー王子が私と同じ転生者だなんて、その時は知らなかった。初めて会った時に、こう聞かれた。
「もしかして君は、前世の記憶を持って生まれてきたのかい?」
「えぇ、前世の記憶があるわ。そういう貴方も?」
私は正直に答えた。前世の記憶を持って、この世界に生まれてきたんだと。それに気付いたということは、貴方もそうなんでしょう?
そう聞いてみると、アレクサンダー王子も正直に白状してくれた。私たちが同じ、転生者であるということを認識した。
その後、約束を交わす。平穏に暮らしましょう、という約束を。その約束が破られてしまうなんて、その時は想像していなかった。
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