#終わらない人生、その為にか

STORY TELLER 月巳(〜202

#終わらない人生、その為にか

#終わらない人生、その為にか

2022.10.23


【storyteller byTukimi©︎】

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旅先で人生掬い上げられた。


『要らんや言われるのはさ、

幾つになっても辛いやね』


旅先、素泊まりだけのホテルの向かいに

唯一の、小さなお店。

知らない土地の、初めて、そして二度と会わない人の前で。

仕事の話をした後で、多分人間関係って大変で、みたいなよくある話をしたはず、

何時もみたいに、間を持たすくらいの話。

それだけだったのに。


言われた一言が、堪えきれない涙を呼び。

封じ込めるように閉まっていた記憶。

あると日常辛い、やりにくいものたちが次々溢れて、感情の波がくるくると場面ごとに自分の理性を押し流して。

みっともないけど、しゃくりあげて、声もあげて、強い感じる気持ちのままに泣いて泣いて。


疲れて、なんとか感情が制御で押さえられるまで冷静になった時。

擦るばかりの目と頬がひりついて。

涙が染みる痛さと。痛くてクラクラする頭。

一枚布がかかったような、少しぼんやりした向こうにいる、人は。

微笑むでも不用意に励ますでも、共に悲しむでもない、感情があまりない表情で。

深い目尻を一瞬の深みにして、すぐ。


無言で。困るでもなく。

いてくれるだけに、佇んでいるのが、

泣いている間時折見えていたけど。

泣き止んだ後も、顔は変わらず。


『お疲れ様だったんやねえ』

って。水を入れたグラスを一つ、

置いた後。

すぐ飲み干す私に、おしぼりを、

そして二杯目の水を差し出してくれた。




お代の千円札からお釣りを僅かに返していただき、頭を少し下げて、店を出る。


出た外は街灯なく。

頭は手を添えたいほど痛いけど。

見上げた空が濁りなく寂しくなく、

久しぶりに美しく暖かに見えて。

しんどい体のくせに軽く感じて、笑いながら帰る帰り道。なんか笑える今なら何でもと。




気がついたら。

分厚いカーテンから日が差して。

僅かに残る隙間の間から顔に当たり、目に痛い。

あまりない電車の本数に

早々チェックアウトして、出た目先に昨日のお店を見て。

閉店時間とっくに過ぎた時間まで居させて頂いていた、の、に気づいてしまった。

夜だけ開く店内は、closeと小さな看板をドアに下げた、薄暗いが朝日が木肌と古びた硝子をちらちら舐めるように光らせる。


探した人影は当たり前に無かったから、

止めた足を揃えて、帽子を脱いで。

丁寧に頭を下げて離れた。


「行こうか」


自分で。自分に声を掛けて。

走らせたり、頑張ってと励ましたり、

時々、甘やかして、気持ちを掬い上げながら生きる日常へ。


大丈夫、もう。

また旅に行きたいと生きていたいと思えている。


もう過去。

忘れたり乗り越えたはずな、記憶の人達が

まだ後ろ指を差したり、

わざわざ、ひっそり過ごす場所から引っ張りだして、突き回して、笑う姿が消えず。


もう触らないで、見ないで来ないでって。

泣いたら溢れたこれは、

似た扱いに遭うたびに、出てくるのかもしれない。だけど。


時々落ちる絶望の穴で捨てたい人生に引きこもっても、

ギリギリ穴の1ミリ上まで押し上げてくれる、

出会いや言葉があって。


死なせてもらえない今は。

またしばらく生きるしか、ないよ。

無様でも、中身なく頑張っている感じしか、

伝わらなくても、それが実らない時も。


また、旅で。

知らない人だからこそ。

含みや余分な感情の無いただの事実の言葉や、会話をして。

知らない土地の知らない人の、まま、いるか居ないかわからない私はちゃんと閉幕後、

ずるずる甘やかされずに生きる力だけ、貰い。


帰るべき場所に帰る。

その勇気くれる旅に出たら、帰る。


ありがとう、二度とないが、またねとよびかけたいから。またねと。後ろに消えゆく景色を噛み締める、さて。





私の人生は残念ながらまだ、終わらなくて。

まだまだ、これから、らしい。


また、幕が開いていく。



☆お仕舞い☆

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