第22話 アナタもきっと


 花嫁衣裳が完成した翌日、ハルピュイアの結婚式が行われた。広場は色とりどりの花々で飾られて、並べられたテーブルには料理が美味しそうな湯気を立てている。里の皆が集まって花嫁を祝福していた。


 舞台に立つは淡いピンクの肩を出したマーメイドラインのドレスを着こなす花嫁、ロミンだ。白いフリルに縫い付けられた宝石の屑石が、太陽の陽ざしに煌めいている姿はとてもよく似合っている。


 翼を広げれば花嫁衣裳をより引き立てて、見るもの全てを見惚れさせてしまうのではないかと思わせた。まだ婿探しの儀ができない若いハルピュイアたちが羨ましげにロミンを見つめている。


 これは羨ましいと思ってしまうのも無理はないなとシャロンも納得してしまう。だって、自分でもいいなと思ってしまったのだから。


 隣に立つ夫のジャンもロミンから目を離せないようだった。幸せそうな二人に彼らはきっと末永く夫婦として暮らしていけるだろうとシャロンはなんだか安心した。


 夫婦になったからといって長く続くとは限らないのだ。それはハルピュイアだって同じで、夫に逃げられたというのを聞いたことがあったし、それほど多くはないが別れたという夫婦もいなくはない。


 そんな不安を二人には感じられなくて、シャロンはあんなふうに笑い合えるのはいいなと羨ましく見つめる。



「シャロン?」

「どうしました、ジークさん」

「いや、ずっと黙っているから」

「あぁ、幸せそうだなぁって」



 ちょっと羨ましくなったのだとシャロンが素直に答えれば、「そうだな」とジークハルトはロミンたちに目を向ける。



「幸せそうだな」

「ですよねぇ。ロミン、すっごく綺麗」



 同族の贔屓目を抜いても彼女は綺麗だとシャロンは言うと、ジークハルトは同意するように頷いた。彼の目から見ても彼女の花嫁姿というのは綺麗に映るようだ。


 ロミンはブルーローズの花でできた花冠を頭に飾っていて、それがまた彼女を引き立てていた。やはり、お似合いだなとシャロンは思いながら眺めていると式がどんどんと進んでいく。


 前世のように誓いの言葉やキスがあるわけではないのだが、長である三姉妹に祝福の言葉を貰っている二人は照れたように笑んでいる。そうやって式は終盤になり、ブーケトスの代わりである花冠の手渡しへと移った。


 花嫁が次に幸せを掴んでほしいと願ったハルピュイアへと渡すことになっているそれを、どきどきとした様子で若いハルピュイアたちが待っていた。ロミンは花冠と取ると真っ直ぐに駆け寄った――シャロンへと。


 ロミンはシャロンの頭にブルーローズの花冠を被せると微笑む。



「うん、よく似合ってる!」

「え……」

「ブルーローズはアナタにぴったりだよ、シャロン」



 ロミンはそう言ってシャロンの手を握った。



「次はきっとアナタの番だよ」

「いや、その……」

「アナタはきっと気づくだろうし、王子様は現れるよ」



 それがどんな人かは断言できないけれど、きっとアナタだけの王子様が現れる。アナタを愛して受け止めてくれる夫となる存在はきっとと、ロミンは語るように言う。


 彼女は断言するような口ぶりで言われて、シャロンは何処からそんな自信が出るのだろうかと不思議だった。けれど、なんだかそんな気がした。自分にもそんな素敵な存在が現れる気がして。


 ロミンが花冠を渡すとハルピュイアたちが祝福の拍手を送る。それが何だが気恥ずかしくてシャロンは視線をうろちょろとさせてしまった。そんな彼女に「よく似合ってるよね!」と、ロミンが隣に立つジークハルトに問う。



「ね!」

「あぁ、よく似合っている」



 ジークハルトはそう答えると優しく笑んだ。その笑みがまた綺麗なものだからシャロンは見惚れてしまって、それに気づいて照れを隠すように俯いた。


 花冠の手渡しが終わると二人を祝う宴が始まる。各々がテーブル席に座って食事をしながら飲めや騒げやと彼らを祝うのだ。シャロンは料理を食べながらそんな騒がしい広場を眺めていると、ジークハルトにじっと見つめられていることに気づいた。



「ジークさん?」

「あぁ、いや特にはないんだが……」

「ないのだが?」

「よく似合っているなと」



 シャロンの頭に飾られたブルーローズの花冠のことをジークハルトは言っているようだ。シャロンは思い出したように少し照らながら「そうですかね」と頬を掻く。


 宴が終わるまで被っている決まりなのでシャロンは花冠を飾っているのだが、彼はよく似合っていると何故か気に入っているようだった。



「やっぱり、銀色の髪って青とかと合うもんなんですかねぇ」

「それもあるがシャロンだから似合うと思う」

「えっと?」

「……すまない、上手く説明ができない」



 シャロンだからブルーローズが似合うと思ったのだとジークハルトは話す。それをどう説明すればいいのかは分からないらしく、ただそう思ったのだと。言いたいことはなんとなく伝わったシャロンはまた恥ずかしそうにする。


 やはり、言われ慣れていない言葉をこうも頻繁に聞くと恥ずかしさと照れが湧いてくるもので、シャロンは「ちょっと慣れてないので」とえへへと笑む。それを見てジークハルトが押し黙った。



「えっと、ありがとうございます」

「……あぁ」

「何か?」

「いや、何でもないんだ」



 何かを誤魔化すように食事を口に運ぶジークハルトをシャロンは不思議そうに見つめていた。



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