第18話 花嫁衣装は白が似合う


 シャロンは自分が夫婦になるというのが想像できなかった。まずはお付き合いをしてから相手を知っていって、それから結婚というのが普通だと思うのだが、ハルピュイアはその過程がなくとも好きになった愛した人を夫に迎える。


 カノアだって数日間しかディルクと共にいなかったというのに夫に迎えたのだ。シャロンは自分にはそれはできないなと思ったので、彼女やハルピュイアの行動力などには驚いている。


(私とジークさんが夫婦ねぇ……)


 カノアは式の準備をしながら考えてみるけれど、やはり想像ができない。ジークハルトにも選ぶ権利があるので、そうはならないかもしれないという思いが邪魔しているようだった。


 だって、彼が自分を選ぶとは限らないのだ。シャロンはそれを思うと彼と夫婦になる想像など失礼になるよなと考えるのを止めてしまう。それでもやっぱり花嫁衣裳を着てみたいという憧れはあるので、今回の花嫁であるハルピュイアの様子を見てしまった。


 花嫁のハルピュイアは明るく華やかで、嬉しそうに微笑む笑顔がとても素敵だ。長く淡いピンクの髪を結い直して、花嫁衣裳と合わせながら縫い子のハルピュイアたちと楽しそうに話している。


 そこへ彼女の夫である烏の獣人がやってきた。彼は妻の花嫁衣裳姿に見惚れてしまっている。暫く固まっていたのを見て、好きな人のあの姿は破壊力あるだろうなとシャロンは思う。



「花嫁衣裳なー」

「着たいでしょ」

「そりゃあ……うん」

「シャロンは白が似合いそうね」



 広場に飾る花を編みながらカノアが言う、アナタには白が似合うと。白銀の長く癖のある髪とその青い双眸は白をよく引き立てるので、きっとよく似合うだろうと言われてシャロンはそうかなと自分の髪を弄った。


 前世の世界でも花嫁の衣装は白だったので違和感というのはない。白い花嫁衣裳かと花嫁を見て、ハルピュイアのドレス形を確認する。肩を出したマーメイドラインで、少しフリルがあしらわれて、きらきらと宝石が煌めていた。



「あの宝石ってさー」

「あぁ、屑石だよ。さすがに宝石は高価だから屑石を使ってる」

「だよね」



 屑石でもあそこまで輝くものなんだなと花を編みながらシャロンが見ていれば、「どうした」と声をかけられた。振り返れば、ジークハルトとディルクが狩りから帰ってきたようだ。


 二人も式の準備のために狩りを任されていたのでそれを終えたのだろう。シャロンが「お疲れ様です」と声をかければ、ジークハルトは「シャロンも大変そうだな」と返される。


 広場の飾りつけに使う花というのは森の中から探すのが基本だ。沢山の花を用意する必要があるので、ハルピュイア総出で探し回ることになる。その集めた花を飾りやすくするために編まなければならない。


 探すのも大変だが、編んで飾るというのも地味に疲れるものなので、シャロンは「ちょっと疲れましたね」と呟く。



「何を話してんだ?」

「シャロンの花嫁衣裳は白が似合うよねって話してたのー」

「あー、分かる。シャロンちゃんは白だな」



 カノアの言葉にディルクは頷く、白が似合うと。他の人から見てもそう見えるものなのかとシャロンが思っていると、ジークハルトがじっと見つめていることに気づいた。どうしたのだろうかと首を傾げれば、彼は「確かに」と一人、納得したように頷いていた。



「どうしました、ジークさん」

「いや、シャロンは白が似合うだろうなと」

「そうですかね?」

「綺麗だと思う」



 さらりと言うジークハルトにシャロンは目を瞬かせる。綺麗とはと考えて、自分に言われたことなのだと理解すると「はぇっ」と声を上げた。


 なんでそんなさらりと言ってのけるのだと慌てる脳内にシャロンは言葉がでない。そんな彼女の様子を察してか、カノアが温かい眼差しを向けていた。



「そうよね! シャロンには白よね!」

「俺もそう思う」

「絶対、綺麗よ!」

「そうだろうな」

「まままま、待って! カノア! カノア!」



 カノアがジークハルトに言葉を誘導していることに気づいたシャロンが止めに入る。ジークハルトはと言えば、何か問題があったのかと言いたげにしている。きっと思ったままのことを口にしていたのだろう。それを理解してますますシャロンは動揺してしまった。


 ジークハルトに綺麗だと言われて恥ずかしい気持ちもあるが、嬉しいと思っている自分がいるのだ。このまま聞き続けたらおかしくなりそうだったので、カノアを止めたのだが彼女は悪びれる様子もない。



「ジークさんに言われてよかったわねぇ~」

「カノア!」

「何が嫌なことを言っただろうか?」

「いや、違います! 大丈夫ですよ、ジークさん!」



 わたわたと慌てて訂正するシャロンをジークハルトは不思議そうに見つめている。二人の様子をディルクは「もう少し押せばなぁ」と呟きながら見守っていた。


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