第6話 もしかしなくても、強いのでは?



 ハルピュイアの狩場は思っていたよりも広い。ディルクはこの辺りから先はとジークハルトに教えている。大木が少なくなったらそこは縄張り外だからすぐに引き返せと。


 木々が密集して大木が多い場所がハルピュイアたちの縄張りなので、分かりやすくなっているから周囲を見て、空間が広くなったと思ったら戻ればいいとディルクは教えた。



「で、魔物も結構出る。猪に似たボアラはよく出るぞ。あとは怪鳥ケンクックとか、レッドサーペントとかな」



 ケンクックは倒せれば良い獲物で、「肉は食べれるし、羽根は素材になる」とディルクは話す。シャロンは頭の中にある情報を引っ張り出す。ケンクックとはダチョウの大きさをしたカラフルな羽根を持つ魔物だという知識があった。


 戦闘能力は低く、後ろ蹴りが痛いぐらいで慣れればさくっと狩れるくせに、繁殖力は高いという。そんなケンクックを求めて蛇の魔物であるレッドサーペントがうろうろしている。


 レッドサーペントは少々大きく、毒はないものの鱗が装甲代わりになっており、倒すのが面倒ではあるが素材の鱗は装飾品や防具になるので倒せたら旨みはある。


 森に出没する魔物の情報は頭に入っていて、思ったよりはちゃんと知識がるなとシャロンは思う。チートスキルなどはないけれど。



「ここら辺は猪と兎、鳥が捕れる」



 ディルクは「罠を仕掛けると結構、引っかかるぞ」と言って茂みを捲るように見せた。すると、籠の罠にかかった兎がいたので手慣れた手つきで耳を掴んで仕留める。


 ぐったりと動かなくなったそれにシャロンは小さく手を合わせる、これも生きるためなのだと。罠を仕掛け直してディルクは「やり方を教えてやるよ」と獲物を袋に詰めた。



「殺生は大丈夫か?」

「魔物ならば幾度か倒したことはある。兎などの狩りも経験が少し」

「おー、なら大丈夫だな。いるんだよ、たまに」



 可哀そうだのといって仕留められない奴とディルク言う。生きるためには彼らの命を貰わなければならない、憐れんでも腹は膨れないのだから。


 妻を子供を養うにはそれだけ食料が必要になり、栄養となる血肉は多く捕らねばならない。猟師をしているだけあってかディルクは経験が豊富だった。



「さて、じゃあ何か狩って帰るかね。猪と兎、鳥以外には鹿も捕れるが……」



 何か狩った方がいいだろうとディルクが周囲を見渡した時だ、シャロンの耳が何かを捕らえた。シュルシュルと言う音がする、地を這うようにゆっくりと。



「何か、来る!」



 シャロンはそれがすぐそばまで来ていることに気づき、声を上げとそれに反応して素早く弓をディルクが構えた。



「シャァァァアァアアッ!」



 赤い赤い艶のある鱗がまず目に入った。縞模様の綺麗な外装は長く太く、頭を持ち上げれば大人二人分ほどの高さとなるレッドサーペントがそこにいた。相手は獲物を見つけたと言わんばかりに大口を開けて威嚇している。


 これはこれはとシャロンはおもわずまじまじと見てしまった、これが魔物かーと。いや、知識はあるのだけれど、転生して記憶が戻ってきてからは初めて見るのだ。こういう反応になってしまうのは許してほしいとシャロンは思う。


 レッドサーペントが牙をむく、シャロンは思わず高く飛んだ。がんっと地面を抉るそれにひぇぇと小さく悲鳴を上げる。相手からしたら獲物なのだ観察している場合ではない。


 ディルクがレッドサーペントの目に向かって矢を射るとそれは綺麗な弧を描いて直撃した。雄たけびを上げながら悶えている相手の隙にジークハルトが剣を抜く、僅かに鱗に傷を作りじんわりと血が滲む。


 ジークハルトの動きを見て戦いに慣れているようにシャロンは感じた。空を飛びながらレッドサーペントと間合いを取り、自分も何かせねばと見遣る。


(えっと、自分ができるのは風魔法と足の爪での攻撃ぐらいか?)


 頭の中にあるのはそれぐらいだったので、ものは試しにとシャロンは思いっきり翼をはためかせた。すると、風の刃がレッドサーペントの身体を襲う。


 これは前に使った風魔法とは違うものだとシャロンは気づく。こんなものも使えるのかと驚いていれば、レッドサーペントが身体を鞭のようにしならせて攻撃を仕掛けてきた。



「うおわっ!」



 慌てて飛び避ければ、レッドサーペントが牙をむいたので宙を飛び回りながら回避する素早い動きをしていた。風を起こして刃を生み出し、相手を切り裂く。それに続くようにジークハルトが剣を向けて、援護するようにディルクが矢を射る。


 じわじわとだがレッドサーペントが追いつめられていたけれど、あと一押しが足りないようで、それにジークハルトも気づいていたようだった。



「少しでいい、動きを封じれないかっ」



 ジークハルトの声にシャロンは自分が使える魔法を思い出す。風魔法でも私が使えるのは下級だしといくつか挙げていき、少しでも動きを遅くすればいいのかなと考えに至る。


 シャロンは翼をはためかせて小さな竜巻を生み出してレッドサーペントに放つと、相手の身体を飲み込んで動きを鈍らせる。なんとか渦から逃れようと胴体を捻らせて、出てきたところをシャロンは思いっきり飛び蹴りした。



「おうらぁああっ!」



 凶器のような足爪がレッドサーペントを鷲掴み、そのままの勢いで地面に叩きつけられる――動きを封じたその僅かの時だ。



「シャロン、飛べっ!」



 ジークハルトが剣を構えてその勢いのまま振り上げた合図とともにシャロンは飛び上がった。それは突風だ、凄まじい勢いの風の刃がレッドサーペントの首を跳ね飛ばした。


 飛びながらその光景を見たシャロンはおぉうと声を零し、ディルクもうっわぁと呆けた声を上げていた。


 血飛沫を上げてレッドサーペントは動かなくなり、死んだことを確認したジークハルトは小さく息をついて剣を鞘に納めた。



「もしかしなくても、ジークさんお強い?」



 只者ではないような気がしたけれど、まさかとシャロンは地上に降り立って頭と胴体が離れたレッドサーペントを見遣る。


 あの風魔法って絶対に下級じゃないよねと、シャロンがジークハルトを見遣れば、彼はいたって冷静な態度をしていた。これはどうするのだとディルクに質問している。



「いやー、レッドサーペントはなかなかの獲物だからね。シャロンちゃん運んでくれる?」



 ディルクの「里に持っていったらみんな、喜ぶよ」という言葉に、シャロンははいと慌てて返事をしてレッドサーペントの胴体を足で掴んだ。


 どうやら、ハルピュイアは足の力が強靭らしく、レッドサーペントの重さぐらいなら掴んで持ち運べる。流石にこれ以上となると難しいのだが、これぐらいならば平気だというのが身体に沁みついていた。


(まー、ジークさんの強さは気になるけど、一先ずはこの獲物を運ぶかー)


 気になることはできたが今はこれを運ぶことが第一だと、器用に掴んで飛ぶとぬっと胴体が浮き上がる。シャロンたちはレッドサーペントを持ち帰るために里へと戻ることにした。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る