第3話 拾ったのは私だけど、この展開は聞いてない!
日が暮れる前にハルピュイアの里にシャロンたちは着くことができた。門番をしているハルピュイアがシャロンを見て、こんなにも早く戻ってきたのかと驚いている様子だ。ジークハルトに目を向けてから、「ちょっと待っていろ」と飛んでいく。
暫くして紅く長い髪を靡かせた美しいハルピュイアが飛んできて、優雅に着地するとシャロンの前へ立つ。
長身でスタイル抜群の彼女がこの里を治めている三姉妹の一人、長女のアエローだ。
「よくぞ、戻ってきたな!」
「いえ、そのアエロー様……」
シャロンが説明しようとするとアエローはジークハルトに目を向ける。間近で品定めするように観察する彼女に彼は困惑している様子だった。
「なかなか良い男じゃないか! 顔が良い!」
「まぁ、そうなのですが……」
「成人の儀である婿探しを終えてきたのはお前が最初だぞ」
「はぁ?」
その言葉にジークハルトは声を上げる。シャロンはそれで思い出した、自分は婿探し中であったことを。そりゃあ、男を連れて帰ったらそう思うよねと納得する。
シャロンは「アエロー様に違うんですよ!」と慌てて訳を話すと、彼女はふむと顎に手を当てる。
「なるほど、理解した」
「誤解させてしまい、申し訳ございません……」
「いや、気にすることはない。お前は心優しい子だ。人間を見捨てられなかったのだろう。しかし、そうか……」
アエローは困ったように眉を下げた。何か問題があるのだろうかと不安げにシャロンが見つめれば、彼女は言う。
「里の掟として、婿以外の他種族を敷地内に入れることは許されないのだ」
「はぁぁあっ!」
シャロンの声にアエローは「忘れていたのか」と言われて、そういえば頭の中の知識の一つにそんな掟があったなと思い出す。色々と考えすぎてすっかり忘れていたようだ。
どうしたものかと助けを求めるようにシャロンはアエローを見遣る。そんな瞳に彼女も人間をこのまま放り出すことができないようで困った様子だ。
そこへピンクの巻き髪を揺らしてオーキュペテーがやってきて、「どうしたの?」とアエローに声をかけている。訳を聞いた彼女もあらぁと口元に手を添えた。
「それは困ったわねぇ。もう夜になっちゃうしぃ」
「掟は掟だからな。困ったものだ」
「姉上様、どうした?」
二人の様子にケライノーがやってきて、短い水色の髪を掻き上げながら傍まで飛んでくると、彼女も話を聞いてうむと考える仕草をみせた。
三姉妹が相談している中、ジークハルトが先ほどの婿探しのことをシャロンに問う、なんだそれはと。
「あぁ、それはハルピュイアの成人の儀で……。婿になってくれる人物を探してくるまで里に戻れないという……」
シャロンが「私はその婿探しの途中だったんですよ」と説明すれば、ジークハルトはハルピュイアにはそんなものがあるのかと興味深げに聞いていた。そんな様子を見れば、この成人の儀が人間の界隈では有名でないことが分かる。
まぁ、ハルピュイアとかメジャーな亜人種じゃないもんねと、シャロンは思いながら三姉妹の言葉を待つ。暫く経ってから三姉妹はこれならばと頷いたのが見える。どうやらやっと結論が出たらしい。
「人間よ、これは我らからの提案になる」
「なんだろうか」
「里の掟は絶対だ。婿以外の他種族を敷地内に入れるわけにはいかない。だが……」
そこでアエローが一つ間をおく。
「シャロンの婿、またはその候補にならないか?」
ジークハルトは目を瞬かせる、言葉の意味を理解できなかったように。そこへオーキュペテーがいやねと話す。
「里の掟を破るわけにはいかないのよぉ。それで、アナタがシャロンちゃんの婿か、その候補になってくれれば、暫くは置いておけるってわけぇ」
婿候補でもいい。一先ず、婿の素養があるということにしておけば、里の掟を破らずに済むのだ。
だからといっていきなり出逢って数時間の人外の婿候補になれと言われて、はいそうしますとは返事ができない。何とも言えない表情をジークハルトはしていた。そんな顔になるよねとシャロンも思う、自分もこの提案に驚いていた。
「お前は行く場所がないのだろ。ならば、シャロンの婿になってもいいではないか。此処ならば人間は滅多に訪れることがない」
ケライノーが何を迷うことがあるのだといったように言う。
(いや、結婚相手ぐらい選びますよ!)
シャロンは口には出さずに突っ込んだ。自分でも悩むと思う、この状況は。
オーキュペテーは「シャロンちゃんは美人さんよー」と勧める。優しい子だし、きっと良いお嫁さんになるわと。なんだか、親戚のお姉さんが婚期の迫った子を何とか結婚へと持ち込もうとしているように見えた。
「なんだ、他種族が嫌か?」
「……いや、そういうのは無いが、その……」
ジークハルトはちらりとシャロンを見遣って、かなり戸惑っているのか瞳がかなり揺れている。
「ほら! お見合いとか許嫁とかだと思って、ねぇ?」
「いくらなんでもそれは難しくないでしょうか、オーキュペテー様」
それは流石にとシャロンが突っ込むと「シャロンちゃんも自分を推しなさい!」と言い返されてしまった。
「我々は人間の訳は聞かん。お前が言いたくないのなら言わずとも良い。悪しき者でないのならば、我々はシャロンの婿候補としてお前を歓迎しよう」
ケライノーが「好きなだけ此処にいればいいし、匿ってもやる」と言えば、ジークハルトはうっと声を詰まらせる。住居と食事は約束され、訳も聞かずに匿ってもやるという彼にとっては好条件ではあるようだ。
「シャロンも拾ったのはお前なのだから責任は取れ」
「アエロー様、それはそうなんですけど……」
(それはそうだけど、選ぶ権利よ!)
シャロンにだって選ぶ権利はある。全く知らない男なのだぞと言いたいが、拾ったのは自分なので言い返せない。
さぁ、どうすると三姉妹の圧がジークハルトを襲った。彼女たちの眼は獲物を捕らえた猛禽類のような瞳をしている。
「……わかった」
ジークハルトははぁと息を吐いた。逃げられないと感じたのか、このままの状況では自分の身が危ういと判断したのかは分からない。けれど、条件を受け入れることに決めたようだ。
「ただ、婿候補としてで頼む。まだ、俺は彼女のことを知らないんだ」
ジークハルトの言葉に三姉妹は頷いた、それは仕方ないことだと。
こうして、シャロンは拾ったイケメン――ジークハルトを婿候補として迎えることとなってしまった。
(いや、拾ったの私だけど! けど!)
いろいろ言いたいことはあるが場がその流れになってしまったので、何も言うことができなかった。
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