勇者は戦えば戦うほど強くなる代わりに××を失う剣を手に入れた!

森月真冬

伝説の武器

 僕の名前はチャールズ=シャーノン。勇者をやってる。

 神官のお告げによると僕は今生きてる人間の中で、最強の力を持ってるらしい。


 隣にいる女性はアルル。僕のパーティの回復役であり、聖女である。

 僕と彼女は恋仲で幼馴染だ。

 無事に魔王倒せたあかつきには、結婚しようと約束しあっていた。


 少し離れた場所で遺跡を調べているのは魔法使いのアリスで、僕らの中では一番若いけど、ものすごく頭がいい。

 僕も頭の良さにはそこそこ自信があるけれど、彼女の話にはついていけない時がある。

 有智高才うちこうさいってのは、こういう人を言うんだろうな。


 最後に、部屋の入口を見張っているのが戦士のハロルド。

 細かいことを考えるのは苦手で豪快、気は優しくて力持ちな大男だ。


 僕たち四人のパーティは、普通の人じゃ絶対にかなわないようなドラゴンや魔物、魔族の幹部を倒している。

 だけど、それでも魔王を倒すには、まだまだ力不足なのが現実だ。

 そういうわけで僕たちは今、魔王を倒す『伝説の武器』を求めて、とあるダンジョンの最深部に来ていた。


 朽ちかけた台座に、立派な剣が刺さっている……こけむした床の様子から数百年は経過してそうだが、剣は今しがたみがいたみたいにキラキラと怜悧れいりな光を放っている。


 剣を調べていたアリスが、顔を上げていった。


「うん。やっぱり、これがアタシたちの求める武器で間違いないみたいね」


 ハロルドが、胡散臭うさんくさそうに顔をしかめる。


「本当かよ!? 『戦えば戦うほど強くなる武器』だなんて、そんな都合のいいもんが本当にあるってのか?」


 アリスが答える。


「あるわ。アタシも、この目で見るまでは信じられなかったけどね。この剣には強力な魔力式が刻みこまれてるの。戦うたびにそれが作用して、使用者の力を増大させるみたい。けれど……」


 言いよどむ彼女の後を、僕が引き継ぐ。


「けれど? どうしたんだい、アリス」


 アリスは、困惑したような声で言った。


「リスクはゼロじゃない。力を増大させる代わりに、使ようになっている」


 不安そうにアルルが言う。


「何かを失うって……まさか、寿命とか!?」


 アリスは首を横に振った。


「ううん。そういうのじゃないと思う。直接的に使用者の命を縮めたりだとか、すぐに効果が現れたりだとか、そういう術式だったらわかるもの。使うたびにゆっくりと、確実に、何かを失う。……色々と調べてみたんだけど、アタシにわかるのはこれが限界だわ」


 重苦しい沈黙が満ちる部屋の中、僕は歩を進めて剣を手にした。

 アルルが、小さな悲鳴を上げる。

 固唾かたずを飲んで見守る仲間たちに、僕は明るく笑いかけながら言った。


「みんな、大丈夫さ。魔王さえ倒せば、平和な世の中が戻ってくる! そのためなら僕は、何を失おうとちっとも恐くない! だって、僕は勇気ある者……勇者だからね!」


 腕に力を込めて、一気に剣を引き抜いた。

 暗い部屋の中で松明の炎に照らされる長い刀身は、オレンジ色にきらめいて、眩いほどの光を振りまく。

 ずっしりと重い。なんでも切れそうなパワーを感じる。

 剣を通じて、身体の奥底からフツフツと熱が湧いてくる。


 ……いける!

 この剣があれば、絶対に魔王を倒せる!


 そうだ。例え視力や味覚を失ったって、平和な世の中なら生きていける。

 アルルもハロルドもアリスもいる。

 みんながいれば、何があったってへっちゃらだ!

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