会話
女「また、夢を見たんだ」
男「どんな?」
女「中学校の頃の先生が、どうにかして範囲を終わることができないか、試行錯誤しているの。そんな中、私は優雅に家で手記を書いている」
男「小説を書くことは優雅とは無関係だと思っていたよ」
女「あはは、酷いナルシストだ」
男「直そうとはしているんだ」
女「直さなくてもいいと思うよ」
男「なら指摘してくれなくてもいいのに」
女「なんとやらほど意地悪をしたくなる、と言うでしょう?」
男「穴埋め問題は得意だと思っていたのに、見事に鼻を折られたな」
女「今日さ、とても嫌なことを思い出してしまったんだ。そういえば、なるべく思い出さないようにと誓っていたのに」
男「話ならいくらでも聞けるよ」
女「ありがとう、お言葉に甘えるよ。いや、ありきたりなんだけどね、これは、私がまだ小学生の頃のお話」
女「その頃、私は水彩画のコンクールで、金賞を取るほどに絵がうまかったんだ。みんなからもちやほやされて、とても気分が良かった。調子に乗って、高い画材とかも買ったんだよ。滑稽だよね。自己承認欲求を満たすだけ満たしておいて、その状態がずっと続くと思っていたんだ。
そんなある日、クラスメイトの一人が書いた、当時流行っていたアニメキャラクターのイラストが、みんなに見つかったんだ。私にとっては、見つかってしまったというべきだね。まあとにかく、そのイラストがよくできていて、クラスでは今度、その子がもてはやされた。当然、私は嫉妬する。『なんだか、邪魔だなあ』なんて、思って、次の瞬間にはひどい後悔に襲われた。自分はこんなに醜い人間だったんだって、自己嫌悪に塗れたよ。
なんというか、わかるかな。自分の思考の中に、半透明な水面があって、そこを出るとくっきりした意識になる。半透明だから、それがどういうベクトルかは判別できるけど、実際に言語化はできないんだ。私はその場しのぎの安心感を得るためだけに、『劣等感』とラベルが付けられた言葉を掬い上げてしまった。
それでもやっぱり、私は自分の、最低たらしめる部分と向き合うことができなくて、忘れることにしていた。はは、結局のところ、私は変わらず滑稽で愚かで性悪で情けなくてケチくさくて汚くて面倒で面倒くさがりで幼稚で馬鹿で無能で一般以下で普通のことすらできないくらい人より劣っていて欲張りで、」
女「はあ。ごめんね、典型的な話がつまらない人になっちゃった。反応に困るよね。と、いうことで私が最近食べた珍しいフルーツの話でもしよう」
男「こういう時、僕は良い言葉を選ぶのが苦手なんだけど、そういう時、僕は漫才を見るようにしている。とびきり面白いやつだ」
女「漫才」
男「絶望した時は、笑えば気も紛れるよ」
女「あはは、今度から試して見るよ」
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