咲良の記憶

第2話

高橋咲良は親に愛されて育った。一人娘で、不妊治療の上でやっと生まれた待望の子だった咲良は溺愛されて育った。毎日のように両親から「愛してるよ」と言われて育っていた。その”愛してる”の意味は”好き”と何が違うのか正直よく分からなかったが、少なくとも自分がとても大事にされていることを嬉しく思っていた。小学生になっても両親は毎日のように咲良に「愛してるよ、大事な咲良だよ」と伝えていた。




その日咲良はいつも通りに小学校から帰ってきて母親にテストを見せて自慢した。


「ただいまーママ今日も咲良学校のテストで百点だったよ! 見てみて!」


「咲良、今日も小学校頑張って帰ってきて偉いね。百点なんてすごいね。かっこいいなあ。でもそれ以上に大事な咲良だよ、百点が取れなくても愛してるよ」


愛してるって今日も言われた。咲良もママとパパのこと好きだけど、大好きとの違いがよくわかんない。ママに聞いてみよう。


「ママ、愛してるってなに? 大好きじゃ駄目なの?」


「好きでも良いんだよ、咲良はママにもパパにも好きだよって伝えてくれるもんね。ママもパパもそれがすっごく嬉しいよ。でも、愛してるよって言うのはね、大好きで足りないくらいの時に使う言葉なんだよ。ママになかなか赤ちゃんができなかった話は覚えててくれてるかな?」


「うん、ママ咲良が来てくれて嬉しかったって言ってたよね。ママのところに来られて咲良も嬉しいよ」


「そう言ってくれるとママもとっても嬉しいなあ。愛してるってママ達がよく言ってるのはね、たとえ咲良がテストで良い点を取れなくても、かけっこで一番遅くても、将来の夢が見つからなくても、将来何にもなれなくってもいいよってくらい、咲良がいてくれればそれだけで幸せだなあって思うから使うんだよ」


「んーよくわかんない。咲良パパが仕事クビになったら困る」


「そうだねえ、ママもちょっと困っちゃうな。でもそれでもパパのことが好きな気持ちは変わらないんだ。ママはパパがお仕事ができるところじゃなくって、パパがいつでも優しくってかっこいいところを好きになったから生きていて傍にいてくれたら十分なんだよ」


「パパのこと咲良も仕事してなくても好きだけどなんかよくわかんないな」


「咲良はまだ小学生だからね。もっと大人になったらきっと意味が分かる時が来るよ」


「子どもじゃないもん」


「そうね、咲良はたくさん考えていろいろお手伝いもしてくれる素敵な子だから、子どもだって思ってるわけじゃないよ。でもね、もっともっといろんな事を経験しないと分からないような気持ちなの。ママも大人になってから分かった気持ちだったんだよ」


「じゃあまだ咲良わかんなくてもいい?」


「もちろん。ただ咲良はママにもパパにもすっごく大事にされてるってことだよ」



そっか、大事にされてるのか、ならいいや。うれしいもん。小学生の時に思えたのはそれくらいだった。

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