目指すもの

第2話

秋葉美菜実の両親は小学校の教員だった。小さい頃から父も母もテストを持って帰って採点したり、授業で使うものを作ったりしているのを見ていた。


隣で見ながらテストを「個人情報だからだーめ」と隠されてはまた見に行くのを何度だって繰り返した。


父に関しては美菜実の小学校の先生だったため、同じクラスの担当になることはなかったがすれ違う度に友達に冷やかされて少し恥ずかしかったのを覚えている。


それでも美菜実にとって自分の両親が働く姿は憧れで、小学校の頃から美菜実の将来の夢は学校教師一択だった。


高校生になって進路を決めるときも迷わず教育学部を選び、受験期をなんとか耐えて晴れて大学生になった。


美菜実の通う大学では早い段階から教育実習があったため、おしゃれのためのヘアカラーもネイルもしばらくは我慢だった。それでも教師になりたい夢は変わらなかった。


教育実習では慣れない美菜実の教え方に児童が皆よく発言してくれて嬉しかったし、最終日にはそのクラスの児童全員にプレゼントを渡してこちらも何人からは感謝の手紙までもらった。こんなにすぐにでもやりがいを感じられる職業なんてない。そう思って教師になりたい夢はもっと大きくなった。


教育実習が終われば次の教育実習はもう一年も後だったので、髪も明るく染めてピアスも開けてネイルだってサロンに通い始めて、大学生活を大いに満喫した。


こんなに楽しく大学生活が過ごせて、しかも働き始めたらやりがいのある職業だなんて最高じゃん。やっぱり学校の先生ってこれ以上ない職業じゃん。


忙しいとかブラックだとかそんな話はよくされているけど、私には部活で鍛えた体力だってあるし何よりやる気がある。


あんなにやりがいの付いてくる仕事ならちょっとくらいブラックでも何でも全然耐えてやる。




だって子どもの全員が初めて通る道を私が見せてもらえるんだ。初めての体験を皆と一緒にできるんだ。その成長を誰より近くで見て、喜べる職業なんだ。


そんなに素敵なことってきっとない。中学校や高校だったら割と勉強を教えるイメージが強いけど、思いやりの心とか生活とか、何だって小学校の先生になら教えられるんだ。小学校だからできることがきっと沢山あるんだ。


私絶対小学校の先生になって、私が小学生だった頃の先生みたいに皆に愛される先生になるんだ。



美菜実の小学校一年生の時の先生は新任の先生で、いつも優しくて大好きな先生だった。大人になってからも年賀状を送り続けたし先生からも返ってきた。

それが嬉しくて、自分を覚えてくれていることも、自分が覚えていることも誇りだった。



私、あの先生みたいになりたい。


美菜実の夢はどんどんと広がっていった。それに段々と成績も伴うようになっていた。

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