もう誰にも恋なんてしない

side.唯

第2話

唯が初めて違和感を感じたのは、小学校二年生に上がった頃のことだった。


「昨日のテレビ見た? あれすっごい面白かったよね、最高だった」


「あのボケの人めっちゃ面白かったよね、うちも家族で皆大笑いしてたもん」


「だよね、私のとこもそうだった!」


いつも通り交わされるありふれた話の中、一人だけ、ただ自分だけが全く面白く感じていないようだった。


みんななんで笑ってるんだろ。この話全然面白くないのに。ていうか私も昨日そのテレビ見たけどつまんなかったし。笑ったところなんてどこもなかったのに。


おかしいな、こんなことこれまでなかったのにな。


「皆なんで笑ってるの?」という言葉は声になる寸前でどうにか飲み込んだ。


小学生なんて大人からすればただの子供の集まりだが、唯からすれば小学校は立派な社会だった。


大人と違って子供はつまらないと会話を遮った人に形式上優しくなんかしてくれない。


今いるグループから外れたら学校に、自分のいる社会の殆どに、自分の居場所はなくなる。そうなったらもう終わりだ。


そのことを理論で説明することができなくても唯はそれを肌で感じていた。


それから唯は子どもなりに周りに合わせて愛想笑いをするようになっていた。

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