*

「織田くんごめん!」



小梅警察署に着いて早々、成美は隼人に謝った。



「オレもこんなことになってるとは思わなかったから」



隼人の運転で小梅警察署に8時40分に着くと、駐車場は既に満車で、敷地内にも車があふれていた。

しかも警察署の周りは、駐車場の空きを待つ車で順番ができている。



「みんな考えることは一緒ってことかぁ……」


「どこかで時間潰して出直す?」


「うん……そうなんだけど、この近辺って何もないから……」


「ホントにごめんね」


「それは全然……あ! たいしたとこじゃないけど、海がある。行ってみる?」


「行きたい」


「びっくりするほど何もないけどいい?」


「そんなふうに言われたら逆に気になるよ」


「じゃあ、そこで少し時間潰そう」



(これはデートじゃない。わかってるけどそれでも……)



助手席に乗った成美は、前を見て運転する隼人の横顔をそっと見た。





隼人と休日に会う約束をした後、成美は服選びに時間をかけた。

「友達に見える服」そんなカテゴリーなど存在しない。


仕事の時は黒系の地味なスーツに、髪の毛も後ろでひとつに結んでいるけれど、休日に会うのだから、少しはおしゃれしたい。

それでいて、自分が隼人を意識していることはバレないようにしなければいけない。


成美は悩んだ末、襟のデザインと袖にプリーツフリルの入った小花柄の薄い黄色のブラウスにジーンズ、白いバレエシューズという服装を選んだ。




待ち合わせ場所で成美を見た隼人はいつもと変わらない態度だった。


隼人が運転する車の助手席に乗るのは初めてで、休日に会うのも初めてのことで、成美は緊張していたけれど、隼人は至って普通だった。



(そうだよね。私はただの友達だから……)



少し車を走らせたところで、隼人が言っていた通り海のそばへ着いた。



2人は車から降りると、防波堤に向かって歩き始める。

防波堤の向こう側はテトラポットが続いていて、降りられる場所もない。


朝が早いとはいえ、既に気温が高いせいか、遮るものがない海風が心地いい。



「私の住んでたところには海がないから、こういうとこに来るの初めて」


「学生時代に誰かと来たりしなかった?」


「来なかった。勉強ばかりしてたから。ねぇ、あっちの端まで行ってみたい」


「いいけど、本当に何もないよ?」


「何もなくても見てみたい」



成美は隼人と過ごすこの穏やかな時間がずっと続けばいいのにと思いながら、防波堤の先端を目指して歩き始める。


その後ろを隼人はついて行く。

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