*

「いや、酒あった方がいいから! サンキュ」


「ありがとう」


「どういたしまして」


「適当に買ってきたからいろいろあるよ」



全員が2人にお礼を言う間に、隼人が持っているビニール袋からお酒を取り出すとテーブルへ並べていった。


その横で、深津が袋に入ったスナック類の袋の側面をきれいに織り込み、いわゆるスナックボウル開けしていく。



「深津くんって几帳面」



千智がボソッと呟いた。



「聞こえてる」


「褒めてるんだって!」



慌てる千智に深津は笑顔を向けた。



お酒に手を伸ばすために立ち上がったタイミングで、千智が横山の隣に行った。

それで空いた成美の隣に隼人、その隣に深津が座った。


みんながビールや柑橘系以外の酎ハイを手にするのを見てから、レモン酎ハイを取ろうとした成美に隼人が声をかけた。



「気にしないで好きなの取ったらいいよ」



すぐ隣にいる隼人の方を向いた成美は、隼人が思っていたより近くに座っていたことを知って、すぐに目をそらした。



「苦手なのは日本酒と焼酎くらいで、あとは何でも大丈夫だから」



成美はそう言った後、もう一度、今度はそっと隼人の顔を見た。


隼人は笑っているように見えた。



「オレは何でもOKだから」



隼人は成美が取ろうとしていたレモン酎ハイを手にした。

それで成美は、その隣にあった白葡萄の酎ハイに手を伸ばした。



「それでは、研修にカンパーイ!」



深津の声にみんなが「カンパーイ」と声を上げた。



千智は横山とずっとラグビーの話をしている。

深津と阿部が野球の話を始めたところで、祐美もそれに加わり、ペナントレースについて意見交換が始まった。


残された形となった成美が隼人に話しかけた。



「織田くん、背高いね。何センチ?」


「最後に測った時は179だった」


「それって、もうほとんど180だよね? 羨ましい」


「水野さんは……ちっこいよね」


「どうしてなんだろうね? 両親とも170あるのに、私だけ160ない」


「正確には?」


「それ、聞く?」


「聞きたい」


「158」


「もっと正確には?」


「最後に測った時は157.7。ほとんど158でいいやつでしょ? 今は伸びてるかもしれないし! 織田くんって、意地悪な人なんだね」


「ごめん、そんなつもりで聞いたんじゃないよ」


「じゃあ、どんなつもりで聞いたんでしょうか?」


「いきなり敬語くるやつ止めて。怒ってる?」


「怒ってないよ」


「じゃあ笑って」


「そんなこと言われて急に笑えるわけないでしょ?」


「営業だったら笑うでしょ? どんなことがあっても、例え泣きたくても、嘘ついてでも笑うでしょ?」


「そうだね」



成美が精一杯の笑顔を見せると、隼人も笑った。

成美のぎこちない笑顔と違い、隼人のそれは屈託のない笑顔だった。



「水野さんの下の名前も教えて」


「水野成美。織田くんは?」


「織田隼人。ハヤブサにヒト」


「成美の漢字は――」


「成功のセイに美しい」


「正解、どうしてわかったの?」


「何となく」


「まぁ、よくある名前だしね」



成美が話している間、隼人はずっと笑っていた。

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