第49話

しかしエルミーユにはやはりインハルトしかえていなかった。



彼しか視えていないからこそ新たな考えが脳裏を支配していく。



インハルトが自分を助けに来たとしても、その先に安堵はない。



所詮私とインハルトは敵国同士の身。もしこのまま私というハンターが存在していれば、いつかは双子の密告によりインハルトは処刑されることになるだろう。



それならいっそ、私がこのまま塵と化せば私と愛し合っていた事実もほうむり去れるのではないだろうか。



インハルトに生かされ、大切に扱われきたこの身も双子に穢れされた今となっては亡骸に等しい。



インハルトはヴァンパイアの美しい貴族と結婚し、新たな愛を知ればいつかは私のことも忘れられる。



時の流れがきっとインハルトを幸せにしてくれるはず─────




双子がいない時間を見計らって、エルミーユは大量に投与された媚薬から逃れようと足の指の爪を自ら全て剥ぎ取った。



窓には外から鉄格子がかけられているため、首を吊るなら天井のシャンデリアしかない。



彼女の汗が滴るベッドのシーツを細く破り、何枚か重ねて束にして、


おぼつかない足取りで椅子に登り、束にしたシーツをシャンデリアに掛けた。



戦争しか知らない二国の種族が偶然にも愛し合うことを知れたのは奇跡だ。



自分の愛は決して間違ってはいなかった。



例えどこまでいっても阻まれる愛であったとしても、インハルトを愛し愛された事実が、二国に平和が訪れる予兆であると私に希望を与えてくれたのだから。




私は強く気高いハンター。



この身は穢れても心は朽ちない。

ずっとずっとインハルトを愛している───

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