第31話
甘い刺激に果て
男が立ち上がりその長い髪に唇を落とした。
女の脳内を駆け巡る快楽の神経回路にドーパミンが余韻を残していく。
「お前を快楽の渦に陥れられるのはこの俺だけだ。俺に溺愛されているのだと自覚しろ。」
頬を両手で挟まれ、女の虚ろな目が男の赤い瞳に向けられる。
その赤には囚われた自分の姿が映っていると女が陶酔の息を漏らした。
男が女の髪を後ろへとやると、首とうなじの間に小さく牙を立て吸血する。
女の全身を這い回る血液が男の喉へと繋がると、男の心が女の甘い血に満たされていった。
しかし
「・・・もうずっと前から私は貴方だけのものなのに・・・・」
女が憮然な表情で言い淀む。
男がそれを見て取るとわざとらしく投げ掛けた。
「・・・なんだ?」
「───なぜ、貴方は・・・」
───私の中に侵入して来ないのか───
2人で快楽の渦に溺れることができればどれだけ幸せだろう。
自分が与えられる快楽を男にも与えられればその先どれだけ深く愛し合えるだろう。
自分ばかりが満たされていることに女はどうしても理解し得なかった。
「満たされないものこそお前を繋ぎとめておく鎖だ。」
「・・・私は貴方以外誰にも揺らがないのに。」
・・・女の心が他のものに揺らぐ不安が全くないわけではないが─────
只今まで男を知らず、戦いばかりに明け暮れてきた彼女を大切に想う気持ちもあった。
いつしか2人の愛が認められた時こそ身も心も満ちるのであろうと。
男がその考えを口にすることはなく全てその身で感じろと女の首元にキスの雨を降らせていく。
───『甘い男だね。』────
───『あんたの大事なもの、芯から奪うっちゃうよ?』────
足元に転がる死体の血がいつの間にか黒に染まっているとも知らずに─────
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