第72話

板挟み状態と、太ももの小さな痛みと、さっき飛んで行った緊張のお陰でついに私の目からは涙が溢れ出した。



・・・総長が総長を前にして最悪だ。



これはもう私の、いや、私たちの完敗かもしれない。


里桜、宗平、三潴、四竃、


・・・皆、ほんとごめん。


私、"総長"としての威厳が保てなかった。




前から近付く魔王の姿が一気にゆがみ、



「うっ・・・うぁ"あーーー・・・・」



自分の泣き声とひきつる喉の音が耳に響く。



「・・・・え・・どうしたの、伊東さん・・・。」



ハン君が不思議そうに涙を流す私を見つめた。


止めどなく溢れる涙にもうどうしていいか分からない。



「・・・・それほんとに伊東織果なの??

そんな泣くか普通。」



洸太郎が五月蝿うるさそうに耳を塞ぐ。



「うん、まあ・・・泣くのは置いといて、

この子は伊東さんだよ。伊東さんの匂いだし。」



目の前に魔王の気配を感じると、更に私は声を上げた。むしろ大声を上げてやった。



「あああぁ"ぁ"ぁーーー・・・・」



あまり感情が揺れ動かないハン君でもさすがにオロオロしているのが分かる。


すぐそこにあるハン君の胸元から小刻みに速まる鼓動を感じると、私を抱くハン君の腕が少し緩んだ気がした。

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