第4話 伯母さま

「お誕生日おめでとう、グルード。私が十歳のころはペガサスやら小妖精ピクシーやらを蹴散らしていたのだが、父上のおかげで随分と世界はよくなったな。そう、怯えるな。やがて、魔族の王となる男がそのように情けない顔をしていてはいけない」

「申し訳ございません。伯母さまとは今後とも良き関係を築けていければ、と思います。また今度、魔法を教えてください」


 父上の姉である伯母さまは、おじいちゃんよりも父上よりも魔王然とした立派なたたずまいをしている。その迫力に気圧されそうになるが、フェリヌウスが真後ろで監視していることが分かっているので僕はなんとか持ちこたえる。

 ……伯母さまも悪い人ではないのだ、悪い人ではないのだけれど、僕とは相性が合わないのだ。


「私からはこれをやろう。樹齢一万年以上の不死の樹を芯にした強度あるしなやかな魔法の杖だ。魔族の多くは直感で魔法を使えるのだが、グルードのように道具を使った方が効率がいい者もいるからな」

「不死の樹の杖ですか。こんなにも貴重な杖を僕がもらってもよいのでしょうか。伯母さまに杖はいりませんが、不死の樹の杖なんてこの世に五本もない貴重な杖なのに……」

「良いのだ。私はお前以上にこの杖が似合う者がいるとは思っていない。そのうち、この言葉の真意が分かるはずだ。絶対に折るんじゃないぞ。替えはないからな」


 お、折れるわけがない。伯母さまからのどんなにひどいしごきを受けたとしても、不死の樹から取られた魔法の杖を折るなんてことはできない。


「ああ、そうだ。せっかく、杖をやったのだから、魔法を見せてみろ。お前の父も母もお前がどんな魔法を使うのか、そろそろ見てもいいだろう。それにな、この杖の本当の形は違うのだ」

「杖に本当の形なんて……え?」


 枯れ木のようだった杖が伯母さまの手に渡った瞬間、円を描くようにぐにょりと曲がりだした。伯母さまは円状になった杖をそのまま、僕の右腕にはめた。


「魔法の杖がこんな形になるなんて……勉強不足でした」

「坊ちゃま、私も初めて見ました。勉強不足、というよりかはゴーラレーネ様がすごい魔族なだけでございますよ。このように杖を変形するのが普通だと思ってはいけません」


 魔法を教えてくれるのは伯母さまだが、魔法道具に関することはフェリヌウスが教えてくれる。伯母さまの説明は感覚に頼りすぎる部分があるので、しっかりとした数字とか図面とかは苦手なのだ。

 つまり、魔法の杖はフェリヌウスが教えてくれる分野なのだが、当の本人も知らないとなれば、伯母さまが見せてくれているこれは相当、非常識なことらしい。


「魔法の杖をこのように曲げてしまうとはおっかない。さすが、姉上です」

「お義姉さまにはいつも感服いたしますわ。ですが、このように曲がってしまった杖では魔法を正確にまっすぐ飛ばすことはできませんわよね? どのようにお使いになされるおつもりでしょうか?」

「まあ、二人とも説明はせんでも、お前たちの子供が一番よくわかっているようだ。グルード、お前の特殊スキル魔法を見せてやれ」

「はい、伯母さま」


 そうだ。魔法の杖が曲がるなんて非常識だからびっくりとしてしまったが、僕には伯母さまの意図がすぐに曲がった。なにせ、以前、僕が話したことがあったからだ。

 簡単に魔法を強化してくれる腕輪があったらいいな、と。


「それでは、行きます。特殊スキル魔法――」

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