第3話 贈り物

「坊ちゃまの軍ですか……魔王様は上に立つものとしての自覚を坊ちゃまに持っていただきたいのでしょう。私たちは今後も変わらず、おそばで坊ちゃまをお支えいたします」


 全然想像できないけれど、いつしか僕もおじいちゃんと父上の跡を継いで魔王になるかもしれないのだ。

 早いうちから訓練しておくのは当たり前のことだとは思う。

 だけど、それと同時に立ちはだかる壁が大きすぎて一歩後ずさるような気持ちになる。


 僕が驚いているうちにおじいちゃんの話は終わり、祝賀会が始まった。

 次は僕が誕生に上がり、挨拶をしなければならない。

 祝いの場に集まってくれたへの感謝の言葉はもちろん古語だが、何度も練習して覚えているので不安はない。


「私のために集まっていただき、深く感謝いたします。緑の女神 レザントリープラの祝福がありますように」


 ふう、緊張した。

 皆が拍手をくれたおかげで誇らしい気持ちになりながら、僕は父上とお母さんと一緒に会に出席している貴族たちとあいさつをする。ここで僕は自分の派閥に入れる貴族を見極めることになっているのだ。




「レブラント島の支配者、ゲーアだ。彼とは古くからの友人でね、彼の息子、ヨルムはお前と同い年なのだ。生憎、この場にはいないが仲良くしてほしいと思う」

「光栄にございます。グルード様、お見知りおきを」


 両親の派閥の者以外にも、おじいちゃんの派閥の者、新勢力の中でもとりわけ有力者として目されている者、そして――昔のおじいちゃんのように地位や領地を力によって簒奪した者たちと挨拶を交わす。


 おじいちゃんの地位は政治的なものというよりも象徴的なものだ。おじいちゃん自体が魔法とか剣とかには興味があるけれど、魔界の統治にはあまり興味がないからだ。


 実質的な政治をしているのは父上ということだ。

 魔界の政治を担っている父上は、挨拶の中で牽制も忘れない。僕がこんなことをできるようになるのはいつになるだろうか。


「挨拶はこの辺にしておこう。そろそろ父上が昼寝をしたいと言ってくる頃合いだ。眠いからと機嫌が悪くなっては、参列者の心臓にも悪いだろう」

「そうでございますね。重要なものたちとの挨拶は済ませましたし、切り上げましょう」

「はい、分かりました」




「ここからは身内だけのお祝いということにしよう。父上からは贈り物があったが、私たちは贈り物をまだしていないしな。準備を頼む」


 会場から王族と側近しか入ることができない領域に戻ってきていた。全ての王族を収容することが可能な大広間には、僕たちのほかにもほとんど全ての王族が集まっていた。


「ゼーリエ、コンスタイン姉上がどこに行ったのか知らないか?」

「お義姉ねえ様ですか? 朝から体調が悪いと仰っていましたし、席を離れているだけではありませんか?」

「そうか、ならいいのだが」


 なぜか伯母さんがいないままで二次会は始まった。

 父上がくれたのは緑色に光る魔剣で、お母さんがくれたのは赤色の魔法石の指輪だった。


「魔剣を扱うのが上手なお前にぴったりな修練用の魔剣だ。とは言っても、私直々に魔法をこめたのだ。そこいらにある魔剣とは性能が違う。魔剣に飲み込まれないように鍛錬を積みなさい」

「父上の言葉に従って、まっすぐに練習に励みたいと思います」


 渡された魔剣はずっしりと重くて、構えるだけで精一杯になるだろう。振りかざすなんてできなそうだ。

 

「わたくしからは一族に伝わる憤怒の指輪を。一族の祖であるコーリエが悲痛な死を迎えた時に、その魂が宿ったとされる指輪です。恐ろしい逸話ですけれど、怒れば怒るだけ魔法の効果を高めるのです。あなたが窮地に立たされた時、母はいつもそばにいることを忘れないでちょうだい」


 お母さんがはめてくれた指輪はぶかぶかだったが、魔力を吸い取るとすっと小さくなり、ぴったりな大きさになった。

 僕は父上の魔剣で腕を磨き、お母さんの指輪で守られるのだ。

 そう思うと、二人の子供に生まれることができて良かったと心の底から思えた。

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