魔王の孫は引きこもりたい 【馬鹿力】の逃亡記
ignone
第1話 魔王の孫=プレッシャー
魔王。
魔界を支配し、魔族を支配下に置き、人類を滅亡せんとする悪しき者――そんなふうに童話の中では描かれている。
しかし、実際は――
「グルード、何をしているんだあ! ワシが大事にしていた花瓶を割るなんて、お前は666年ドワッド監獄にいれてやるぞ!」
「うぇええええん、ごめんなさあああああいいいいい」
――なんの変哲もないただのおじいちゃんだ。
魔王歴666年、666月666日、僕のおじいちゃんこと魔王ヴァルヴァートは誕生した。
有象無象の魔物たちを駆逐し、ありとあらゆる暴虐の限りを尽くし、魔界の中央に魔王城ゲードを建てた。そして、魔王を倒さんと志を燃やす人類の代表・勇者を待っているのだが、一向に勇者はやって来ない。
待つことにくたびれた魔王は結婚し、子供を産み、そして初孫の僕、グルードが生まれた。つまり僕は魔王の孫というわけだ。
「お
「ゼーリエが言うのならば仕方ない。グルード、花瓶を割ったことは許すが、次からは自分で申告するのだぞ」
「は、はい、ごめんなさい。おじいちゃん」
「うむ、分かったのなら良いのだ」
お母さんのおかげでなんとか助かった。さすがだ。魔王の長男と結婚したお母さんは肝の座り方が違う。
そうなのだ。今日は僕の十歳の誕生日。
魔界では盛大に祝うのはだいたい十年に一度の周期なのだ。僕たち魔族は寿命が長いから、毎年祝っていると面倒くさくなってくるのだ。
そして、誕生日会と同時に僕が
魔王の正当な後継者として認められた父上の後継者として認められる、というわけだ。言っていることは難しいが、つまり、これから僕も王族としての役目をはたしていかなければならないということだ。
「グルード、そんなに緊張しなくても大丈夫だ。ここ666年、魔界は平穏とともにあった。お前のお爺様のおかげでな」
「よく分かっています。父上とおじいちゃんが尽力したおかげで、僕は生きてこれたのですから」
「ああ、それならいい。しかし、これも忘れちゃいけない。明日、勇者が攻めてこないという確証はないのだ。もしかしたら、この瞬間にも勇者一行はやって来ているかもしれない。そうなったとき、お爺様と父上は先頭に立たなければならない」
――それが武勇を持つ者の役目だから。
父上もおじいちゃんも何度も僕に言っていた。
魔王になるための資質はただ魔力が多いとか、魔法がたくさん使えるとか、そういうことではなく、平和のためにいかに自分を犠牲にできるかにあるのだ。
「その時、お前がすることはただ一つだ。この城にいるのではなく、城を出て、町に行くのだ。町で困っている人を助けなさい」
「はい。僕は魔王の孫ですから、おじいちゃんや父上に恥ずべきことはしません」
「お前は本当に賢い子だ。万が一の時には魔界を任せられる。うん……お前は大丈夫だよ、グルード」
父上が言っていることはあまりよく分からなかった。
それに、父上もお爺様もいない中でどうやって僕に魔界を統治することができるのだろう、とも思う。
僕がせいぜいできることと言えば、みんなのことを助けることぐらいだ。
自分の両肩には魔王と魔王の息子の期待がかかっていると知って、僕は怖気づいてしまった。
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