迷宮新世紀プロ

這吹万理

1st CHAPTER 風車

第1話 プロローグ

翔太郎しょうたろう、隣のクラスの上村かみむらから果たし状を預かってるよ」

「なんで預かってしまうんだ……?」


 おまぬけちゃんな我が親友島野しまの夏向かなたが持ってきたのはあの憎き我が宿敵上村進之介しんのすけからの果たし状である。


 かつて上村は「賢くてしかも強いとても優しい学校の人気者」というキャラクターを取っていた。しかし転校してきたばかりの俺は奇しくもその優しい上村さんに逆らってしまったばかりに、彼にいじめの標的にされてしまった。


 というところで、俺は奴の化けの皮を剥がしてやった。すると、どうだろう。なんと奴はいじめをやめるどころかなんとこういう風に週イチで果たし状を叩きつけた来るようになったのだ。


 高校も3年を迎えた頃。そろそろ受験勉強に本腰を入れなければいけない頃だというのに。もしかしたら奴は俺を道連れにして「高卒」のレッテルを貼り付けようとしているのかもしれない。


 でもまぁ、高卒で困ることは無い。


 だってダンジョンがあるし。


 ダンジョンというのは、200年ほど前に現れ、江戸時代の野郎どもやベル・エポックをドン底に叩きつけた魔境の掃き溜めである。


 このダンジョンで、2005年から「配信」というものが行われる。厳密にはそういうサービス。というのも、その2005年前後からダンジョンに潜る人間に特別な能力が宿ることがわかったのだ。人類の二重螺旋が三重螺旋に変化する。これを第三の誕生と言うらしい。


 んまぁ、そういうわけで、いざとなりゃ第三の誕生してやりますよ、というわけだ。


「あのクソッタレ……」


 でも俺はいい大学を出ていい会社に入って上村を見下したい。悔しそうにする上村に飯を奢って優劣をはっきりとさせたい。


「また、いつもの大喧嘩やんのか?」

「やるわけねーじゃん! 俺もうそういうの卒業しなくちゃな歳だぜ!?」


 そう、喧嘩はしない。そもそもそういうのダメだろ。暴力で全てを解決ってね。やっぱりそういうのはいけない。暴力ってそもそも自分を強いと思いたい者が最後に頼る情けない物だ。そりゃ拳相手に叩きつければ相手は必ず苦しむんだから楽チンだよ。でもそれではいけない。時代は話し合いだよ。俺はネゴシエイターなんだぜ。


「果たし状に『今週末おまえの妹とデートする』って書いてあるよ」

「ぶっ殺してやる……!」


 今まで俺の口から出た言葉は全て嘘だったんじゃないかと思えるくらい、腹の底から出た本音。


 それから1時間後。


「反省文は何枚?」


 夏向が聞いてくる。


「56枚」

「おっ、新記録だ」

「脳震盪狙った蹴りに脚にナイフを刺されたから、貫通して突き出たところを首裏に刺したんだけどさ……『さすがにやりすぎだろ』ってさ」

「靭帯切れてない? 僕これから先一生お前の介護に費やすのヤだよ」


 なんでお前が俺の介護するのん。


「俺の身体は再生力がバツグンだぜ」

「上村は大丈夫?」

「右腕の骨折がいてぇって泣いてたぜ」

「なんで首にナイフ蹴り刺されて死んでないの」


 反省文を書きながら放課後の教室で夏向と雑談。どうも、最近かっちょいい配信者が現れたのだとか。


「推しってやつ? いいね。好きがあると人生は豊かになるよ。これからてめえ様の人生は豊かになっちゃうね」

「僕の人生はずっと豊かだよ」


 じとり、と見つめられる。


「そうなの? いつも俺と一緒で豊かそうには見えない。好きなことしなよ?」

「好きなことしてるよ」

「そうなの? なんだか多忙だね」


 反省文終わりっ!


「家へ帰ろうか」

「一緒にね」

「なんかじっとりしててオモシレ」

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