#4 異世界バックパッカー
はい、始まりました今週のカオティックラジオ。
アナタのお耳の恋人ペトがお送りいたします。
今日は20■■年■■月■■日、皆様如何お過ごしでしょうか?
私は暇の極みに到達してしまいました。
あまりにもやる事がなかったもんで旅に出てやりましたよ。弾丸ツアーです。
近場、アクセスのしやすさ、コスト、色々考えたら異世界に行くのが一番かなと思いまして異世界旅に決定しました。エレベーターがあればお手軽に行けますからね。私のイチオシです。
詳しいやり方はネットで検索してみて下さいね。成功させるコツというか、成功しやすい条件は■■■■■■が重要ですね。是非お試しあれ。
で、手近な10階以上あるビルに向かったわけですが、コレをやってる時に少し笑い話があってですね。
このエレベーターを使った方法だと5階で女の人が乗ってくるんですよ。私それをすっかり忘れてて、エレベーターの扉の真ん前に立ってたんですね。5階に着いて扉が開いたら目の前に女が立ってるじゃないですか。『あ、忘れてた!』と思って、私は左に避けたんです。
そしたら女は私を避けて乗り込もうと思ったんでしょうね、右に避けたんですよ。なんかバスケのディフェンスみたいになってしまって、それが3回くらい続いて気不味かったなぁ。
儀式のルール上、話しちゃいけないんで、お互いに会釈だけしました。会釈も3回しましたからね。アハハ。
最終的に十階に着いて無事成功。
異世界の空気を胸いっぱいに吸い込んで一休み……と思ったら向こうから絶叫して走ってくる男がいまして。やつれてボロボロな男が、眼を血走らせながらこっちに向かって全力疾走ですよ。『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!』って。
その時私の後ろでエレベーターが閉まって下へ帰っちゃったんですよ。男はエレベーターに乗りたかったようなんですけど、寸での所で間に合わなかったですね。
エレベーターの前に崩れ落ちて、咽び泣いてるもんだから可哀想になって、持ってた水とチョコレートをあげたら貪り食ってましたね。よっぽどお腹が空いてたんだろうなぁ。
やっぱり旅の醍醐味といえば旅先での出会いじゃないですか。この第一異世界人との出会いを大切にしたいなと思って、私も腰を据えて話しをする事にしたんです。
色々聞いていたら、彼もエレベーターを使って異世界に来たみたいなんですけど、帰る方法が分からなくて異世界に閉じ込められたみたいです。初めての異世界だったらしいですけど水も食料もなしみたいで、正直舐めてるなーって思いましたね。
友達と一緒に来たみたいですが、じゃあ友達は何処にいるんですか? ってきいたら『いや……』とか『それは……』って言葉を濁すんで、コレは聞いちゃいけないヤツ! と察してツッコむのは止めました。アハハハ。
『元の世界では何やってたのか』とか、『どうして異世界へ行く方法を試そうと思ったのか』とか、話し込んでたら結構時間が経っちゃって。私も異世界でやろうと思ってたことあったのに忘れるところでしたよ。危なかったー。アハハ。
それで、私がやりたかった事いうのはですね――
『異世界で、異世界に行く方法を試したらどうなるのか? 』
皆さんも気になりません? 安心して下さい。ちゃんと試してみましたから。
という事で話しもそこそこに、私は下準備を始めたんです。
最初に『noclip』用の2m×2mの正方形を、黒いビニールテープを使って地面に描きまして。お次は、紙に六芒星を書いて、その中心に赤ペンで『飽きた』って書いたんですけど、それを見てた彼の顔がどんどん青くなっていくんですよ。
終いには『何をするつもりなんですか! 』って大きい声を出すんでビックリしました。彼もそういう系の話には詳しいみたいで、どっちのやり方も知ってましたね。私が何をしようとしているか大体察しがついたみたいですね。私の目的を話したらメチャクチャ制止してきて、正直作業の邪魔だったなぁ。アハハ。
『飽きた』をやるには寝ないといけないんでね。
持ってきた超軽量ダウンシュラフを四角形の中に置いて、『飽きた』の紙を持ってシュラフの中に入ったら、気持ち良くて即寝落ち。 私は睡眠優良児なんです。
あの男性から最後に聞いた言葉は『アンタ正気なのか』でした。アハハハ。
真面目か。私は正気だっちゅうの。
そんで、その『飽きた』と『noclip』を重ねがけした結果なんですけど……自分の部屋に帰ってきちゃいました。
もう詰まんないよー。マジで詰まんない。
取り合えず、今ラジオを放送出来ているのが無事に帰ってきたことの証左です。
はぁ。
という事で今回の放送は此処まで。また聴いてねー。
あの人はどうなったんだろうなぁ。
【編集者後記】
皆さんは『異世界バラバラ殺人事件』という都市伝説をご存じだろうか?
この事件が起こったと言われているのが20■■年■■月■■日。
そう、今回のカオティックラジオが放送された日と同日である。
事件の内容としては、時間は午後4時頃、■■町の繁華街にて、突如上空から人間のバラバラ死体が降り注いだというもの。
死体が何処から来たのかは不明。当時町の上空を飛行していた飛行機などはなかった。死体は20分割されており法則性はない。細かく分割された部位もあれば、ある程度の形を残している部位もあった。
特に注目すべきは頭部と左手。
第三頚椎付近で切断された頭部には傷一つ無かったが、顔面の皮膚は引き裂けんばかりに歪んでいて、その表情は紛れもない『恐怖』を表していたという。
そして手首で切断された左手。握り拳になっており、中には紙片が入っていたそうだ。そこにはこう書かれていたという――
じごく いせかいのおんな しんようするな
この事件は現在、都市伝説扱いとなっている。
死体が降り注ぐ瞬間が偶然映り込んだ映像が存在していたのをご存じだろうか? それは事件発生当初、ネット上にて大いに拡散されていた。しかし現在、その映像はネット上をどれだけ探しても確認する事は出来ない。この事件を『事件』として記録したメディアも存在しない。記事があったとしても全てが『都市伝説』として扱われている。
この事件は本当に起こったのか、そうではないのか? そして本当にあったなら何故その記録がないのか? そしてペトちゃんと関係はあるのか?
一切を確かめる術はない。
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