30
「まあ、そこしかないよな」
信くんは言った。
「私もそこしかないと思う。あの突然あらわれた長いトンネル。……あの中の闇は本当に深くて、まるで本当に『別の世界にまで』道が通じているかのようだった。たぶん、それは通じているかのようだったんじゃなくて、実際にあのトンネルの闇の向こう側には、本当にこことは違う、まったく別の世界があるのだと私は思う」
さゆりちゃんが言った。
「こことよく似ているけれど、でもまったく違う別の○○町がそこにはある……」
久美子が言う。
「そこが本当に○○町なのか」
灰色の空を見上げながら信くんがいう。
「本当の○○町なのかもしれないし、あるいはまた別の、本物ではない違う○○町があるのかもしれない」
さゆりちゃんが言う。
「本物ではない別の○○町?」
久美子が言う。
「そう。また別の○○町がそこにはあるのかもしれない。誰かの見ている夢の○○町。あるいは、本当にパラレルワールドのような、○○町があるのかもしれない。そもそも私たちが言っている『本物の○○町』なんて、最初からなかったのかもしれないし、また、あったとしても、今はもうなくなってしまっているのかもしれない」
そんな怖いことをさゆりちゃんは言う。
「そういう難しい話はここまでだ」
さゆりちゃんを見て、信くんがいう。
「本物とか、偽物とか、別の世界とか、どうでもいいんだよ。そんなことは。まずはこの世界の終わりから俺たち三人が逃げ出すことが一番優先するべきことだろ? あとのことはとにかくこの世界から逃げ出したあとで、考えればいいよ。なあ、三島」
久美子を見て、にっこりと笑って信くんがいう。
「うん。そうだね」
難しい話に頭が痛くなっていた久美子は、そんな信くんの意見と笑顔に同意をした。
さゆりちゃんはそんな信くんに『なにかを言いたげな顔を向けたまま』で黙っている。
「なあ、関谷。俺の言葉は間違っているか?」
そんな信くんの言葉に「ううん。間違っていない。確かに悩んでも仕方のないことだった」と、小さく笑ってさゆりちゃんは言った。
「よし。じゃあ決まりだね。あの長いトンネルのある時雨谷まで早速歩こう。もしかしたら、このまま雨が止んだままの状態で、トンネルのある場所までいけるかもしれないね!」
久美子が言う。
「ちょっとまって、久美子ちゃん」
そんな久美子にさゆりちゃんが言う。
「なに、さゆりちゃん」
元気に片手をあげて、出発する気満々だった久美子がちょっと不服そうな顔をして言った。
「その前に久美子ちゃんに聞きたいことがある」
「私に聞きたこと。それってなに?」
久美子は言う。
「久美子ちゃんは今、『この世界にある○○町で、なにかやり残したことがある』と思っていることは、ある?」とさゆりちゃんは久美子に言った。(さゆりちゃんはとても真剣な表情をしていた)
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