21

 お昼になると、久美子は一人で保健室の中でお弁当を食べた。お弁当を持ってきてくれたの道草先生だった。

「先生、今日は学校にいるんですか?」

 久美子は聞いた。

「いや、また橋のほうに戻るよ。○○橋が落ちてしまって、もうどうしようもないんだ。人でもないしね。今は三島さんの様子を見るために、お昼に少しだけ学校に帰ってきただけだよ」道草先生は優しい顔で久美子にそう言った。

「じゃあね。三島さん。『今日は』おとなしく寝ているんだよ」

 道草先生はそう言って保健室を笑顔で出て行った。(どうやら道草先生には久美子たちがかっけに学校の外に外出したことがばれていたようだった)

 お昼休みの時間になると、とんとんと保健室の窓がノックされた。

 見るとそこには信くんがいた。

(信くん一人だけで、さゆりちゃんはいなかった)

「よう。三島。元気か」

 久美子が窓を開けるとにっこりと笑って信くんは言った。

「信くん。そんなところでなにしているの?」久美子は言った。そう言ったあとでごほごほ、と久美子は咳をした。

「あ、悪い。すぐ行くから、あまり無理するなよ」信くんは言う。

「大丈夫。それよりもどうしたの? さゆりちゃんは?」

「関谷はなにか調べたいことがあるって図書室で一人でずっと朝から調べ物している。なんでも『この○○町の歴史について』調べごとをしているらしい。それで、俺は頭脳じゃなくて現場担当ってことで、こうして足で調べ物している」新くんは言う。

「足でって、もしかして信くん。またあの長いトンネルのところに行くの?」心配そうな顔で久美子は言う。

「そんな心配そうな顔すんなよ、三島。大丈夫。もうあの場所には一人ではいかないよ。関谷にも注意されたしな」信くんは言った。

 久美子は黙って信くんの言葉を聞いている。

「まあ、学校の近くを少し探索するだけだよ。なにかあるかもしれないし、どこかに逃げ道だってあるかもしれないしな」

「逃げ道?」

「ああ、逃げ出す場所ってことだよ。いざってときにそういう道や場所があると便利だろ?」

「逃げ道っていったいなにから逃げ出すの?」久美子は言う。

「それはもちろん、闇闇(やみやみ)からだよ」と冗談ぽい口調で信くんは言った。

 それから新くんは久美子に「じゃあな三島。ちゃんと寝てろよ」と言って、ぬかるんだ焦げ茶色の校庭の上を走って、ずっと遠い場所に言ってしまった。

 一人になった久美子は道草先生や新くんに言われた通りに白いベットの中でちゃんと眠ることにした。(まだ熱っぽかったし)

 でも、今度はなかなか眠ることができなかった。

 だから白いベットの中で久美子は闇闇のことを考えていた。久美子の想像力の世界の中でやみやみは巨大な黒いどろどろの塊になり、それは山よりも大きな黒い泥の津波になって、久美子たちの暮らしている平和な○○町の全景をすべて、瞬く間に、飲み込んで行った。

 朝がきて太陽の光が差すと、闇闇は消えた。

 でも、その闇闇が飲み込んだ○○町は元通りには戻らなかった。

 御影町はなくなってしまった。

 ……久美子の想像力の世界の中で、久美子の知っている平和な○○町は闇闇と一緒に、世界のどこかに消えて無くなってしまったのだった。

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