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「やあ、みんな。ちゃんとここでおとなしくしていた?」
と笑顔で道草細道先生が、久美子たち三人に言った。
「はい」
と久美子たち三人は先生に笑顔で答える。
「うんうん。良かったよかった」先生は言う。
「学校の勉強も運動も大事だけど、やっぱり一番大事なのは『命』だからね。命があるのが一番だよ」と先生は言った。
少し変な言いかたになるけれど、道草先生はいつもこうして、命というものを大切にしなさい、と久美子たちに言っていた。
それは先生としては普通のことなのかもしれないし、あるいは大人としても普通のことなのかもしれないけれど、とにかく道草先生はほかの久美子たちの知っているどんな大人の人たちよりも、命を大切にしなさい、とよく久美子たちにそういった。
それはまるで道草先生の『口癖』のようなものでもあったし、あるいは、(もしかしたら)道草先生は命を大切にしなさい、と久美子たちに言いながら、『その言葉を自分自身に向けて』、言い続けているのかもしれないと思うこともあった。
久美子たちはそのまま道草先生から「今日も学校にお泊まりになります」と言う連絡を受けた。思っていたよりも○○川の氾濫がひどいようで、今もまだバスも通れずに、久美子たちが森の中や町の中を移動するのは危険という判断があるようだった。
「はい」といつものように返事をした久美子だったけど、心の中では……二日続けてか。まるで学校に閉じ込められてしまったみたいだ。と思った。
久美子は少し家に帰りたいと思うようになっていた。
あんなに不気味で、闇闇がいるくらいなら家になんて帰りたくないと思っていた久美子だけど、こうして時間がどんどん経っていくとやっぱり闇闇の恐怖よりも家族の温かな笑顔や幸せな時間の記憶のほうが、久美子の中でどんどんと大きく膨らんで行ったのだった。
そのせいなのかもしれないけれど、久美子はその日の夜。信くんとさゆりちゃんのいる○○小学校のおんぼろな木造の準備室の中で、一人、布団をかぶったまま、泣いてしまった。
自分でも驚いたのだけど、一度泣き出すともう二度とその涙を止めることはできなくなった。
「……お母さん」と久美子は言った。
すると、そんな久美子のところに誰かがそっと近づいていくる気配があった。
久美子が布団から顔を半分だけ外に出して、誰なのかを確認してみると、それは関谷さゆりちゃんだった。
さゆりちゃんは布団から顔を出した久美子を見て、にっこりとまるでお母さんのような笑顔で笑った。
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