14 時雨谷 しぐれだに おーい、みんな。どこにいるの?

 時雨谷 しぐれだに


 おーい、みんな。どこにいるの?


 どこかで滝の流れるような音が聞こえた。

「滝が流れてるね」

 久美子は森の中の緩やかなぬかるんだ土色の道の上を三人で一緒に(先頭から信くん。さゆりちゃん。私(久美子)の順番だった)歩きながら、森の中の音のするほうを見てそう言った。

「この辺りに滝はないはずだよ」さゆりちゃんが言う。

「関谷の言う通り。この辺りに滝はないよ。たぶん、昨日の雨でどこかの川が決壊して、滝のようになっている場所があるんだろ。結構すごい大雨だったからな」木の幹に手をつきながら、信くんはいう。

「確かに。まるで本物の台風みたいだった」歩きながら、久美子は言う。

「……うん。確かに昨日は『嵐の夜』だった」さゆりちゃんがいう。

 それから久美子は空を見上げる。

 森の木々の隙間から見える空はずっと灰色をしていた。またいつ、この灰色の空から昨日のような(あるいは普通の雨でも、今のぬかるんでいる大地ならば)雨が降ったとしたら、もしかしたら私たちは〇〇小学校に帰れなくなってしまうかもしれない、と思って久美子はちょっとだけ心配になった。

「大丈夫だよ三島。そんなに心配すんなよ」にっこりと笑って、久美子を見ながら信くんはいう。

「大丈夫?」久美子は言う。

「ああ。大丈夫だよ。そんなに距離はないし、もう着くよ。そしたらその風景を見て、すぐに学校に帰る。道草先生だって、そろそろ学校に帰ってくると思うし、俺だって時間を忘れて大雨の日の次の森の中で、危険を犯すほど馬鹿じゃないって。俺だって、三島や関谷と同じ、この山の中の町で生まれ育った人間なんだからさ」と信くんは言った。

「まあ、無理をしたら無理やりにでも連れて帰るけどね」にやっといやらしい顔で笑ってさゆりちゃんがそう言った。

「なんだよ、関谷。今日はまた一段と不気味な顔をするな」と信くんはさゆりちゃんにいつものように嫌味を言った。

 そんな二人のいつも通りの会話を聞いていて、久美子は本当に安心した。

 ……よかった。一瞬だけ疑ってしまったけど、やっぱり信くんは信くんんで、さゆりちゃんはさゆりちゃんだった。

 久美子はそう確信した。

 二人は闇闇じゃない。久美子の知っている如月信くんと関谷さゆりちゃんなのだ。

 そう思うとなんだか急にすごく元気が出てきた。

 久美子は最後尾から歩くペースを上げて、前にいる二人に先に進むように促した。

「お、誰かさんと違って三島はやる気あるな。さすが三島だ」

 にやっと笑って信くんが言った。

 そんな信くんの背中をさゆりちゃんは泥だけの靴で、(泥で服が汚れることを御構い無しに)蹴っ飛ばした。

「いて! なにすんだよ、関谷!」信くんがいう。

 そんな信くんの言葉をさゆりちゃんはぷいっと横を向いて、無視をしたままだった。

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