バスはいつものように走り、いつものように〇〇小学校の前で停車した。信くんとさゆりちゃんが席をたち、そのまま歩いてバスを降りようとする。だけど、久美子は怖くて、さゆりちゃんの後ろに張り付くように移動をして、さゆりちゃんの服をぎゅっと握りながら(それは薄紫色のワンピースだった)なるべく闇川さんのことを見ないようにして、バスの乗車口から、バスの外に降りて行った。

 でもその際にどうしても、もう一度自分の目で確認をしたくて、久美子はちらっとバスの運転席を見てしまった。

 するとそこには、やっぱり久美子の見間違えではなくて、闇闇の闇川さんがいた。闇川さんは無言のまま、その顔のある場所だけを動かして、じっとバスから降りていく久美子のことをまるで監視するかのようにして、じっと見つめているようだった。

 久美子はばっと目を閉じた。

 そして、そのままさゆりのあとについて大地の上に降りたった。

 後ろでバスのドアが閉まる音がした。

 久美子が目を開けると、バスは何事もなく、いつものようにいつものコースを走って、久美子たち三人の前から、土煙をあげながら、走り去って行った。

 バスが走り去っていくのを見て、久美子は心底ほっとした。

「なにしてんだよ? 早く教室行こうぜ。先生が待ってる」信くんが言った。

 そんな信くんのあとについて、さゆりちゃんが移動をする。「あ、待って」と言って久美子も走って二人のところまで移動をした。こんな見知らぬ、(そうここは私の知っている〇〇町ではないのだ。きっと)場所で一人になんて絶対になりたくなった。

 久美子は二人のところまで移動をして、そこから二人のことをじっと(じろじろと見て)観察をした。

「……なんだよ、三島。お前今日なんか変だぞ?」と信くんは言った。

 変なのは信くんとさゆりちゃんだ、と思いながら久美子は無言のままで二人を見ていた。

 すると、さゆりちゃんが「……なんとなく、久美子ちゃんの感じている『違和感』の正体がわかった気がする」と久美子を見て、そう言った。

「え? 本当に?」久美子は言う。

 さすが頭のいいさゆりちゃんだ。こんな世界の中でも、さゆりちゃんは本当に頼りになる。なにもわかっていない信くんとはえらい違いだ、と思って、久美子はすごく嬉しくなった。

「……でも、まだ情報が足りない。ともかく、今は先生にあったほうがいい」

「先生? 先生って『道草細道』先生のこと?」

「そう。道草細道先生のこと。まずは先生にあって、……それから、あとのことは考えることにする」

 そう言って、久美子を見たさゆりは、本当に珍しく、(きっと怖がっている久美子を安心させるためだったのだと思う)いつもの人形のような表情を崩して、にっこりと久美子に笑った。

 遠くでひぐらしの鳴いている声が聞こえた。

 その声を聞いて、……今は秋だ、とそんなことを久美子は思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る