「闇属性女子」奮闘記 

かみきの

プロローグ

「光希って、悪口全然言わへんのすごいよね」


「…悪口を言って、その人が死んでくれるなら、全然言うんやけどね」


 中学校の帰り道、幼馴染の秋山光希から聞いた言葉が忘れられない。


 光希は、明るい性格で笑顔が可愛い。小学校の頃からクラスの人気者で、どの先生にもいつも気に入られていた。


 中学校に上がるとバレー部に入った光希は、サッカー部の先輩と付き合っていた。スクールカーストの頂点にいる学生を絵に描いたような、そんな光希の口から出た闇の言葉。


 私、紺野ミヤ子は、光希の対極のような存在だった。

 小学生の頃から成績は優秀。だけど先生に好かれた記憶はあまりない。なまじ頭が良く負けず嫌いで、大人びた発言をしがちなところが良くなかったと今は思う。


 中学校では、運動部に入るのが怖くて音楽が好きなわけでも無いのに、吹奏楽部でクラリネットを演奏していた。


 スクールカーストの底辺組で、男子や意地悪な女子から「闇(ヤミ)子」と陰で呼ばれていた。それを知りながら、気づいていないふりをして、中学生時代をやり過ごした。



 光希は小学校2年生の頃に、近所に引っ越してきた。タイプが全く違うように思えたが、なぜだか意気投合し、毎日遊んだ。互いに何でも話せる存在だった。


 中学校では暗黙のカースト制のせいで、何となく校内で話すことは少なくなった。それでも下校時間を合わせてよく一緒に帰った。


 光希は子供の頃から、ほとんど悪口を言わない。言っても、「安藤、女の価値は顔って言ってたらしいで。サイテーな男やんね」くらいの浅い内容。


 私なら「安藤は脳みその出来が悪いから、顔以外の情報を記録でけへんのちゃう」とまで言ってしまう。


 そんな毒舌を繰り広げる私を光希は、「ミヤちゃんは、嫌なことをなんでも言葉でおもろく変換して笑いに変えてくれる、元気出るわ」と笑ってくれていた。


 私が高校進学を機に地元を離れた後もたまに会っていたが、社会人になると、次第に連絡を取る頻度も減り、疎遠になった。


 「闇属性」に生まれた私と違い、「光属性」に生まれた光希は、素敵な協力者が無限に現れ、大きな幸せに向かって順風満帆に人生を進んでいるのだろうと信じていた。

 

 考えが少し変わったのは、1週間前。光希が失踪したと母親に教えられたからだ。



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