いつもの朝に
森杉 花奈(もりすぎ かな)
風のように
私の朝はまるで戦争のようだ。
あと5分だけ寝ていたいと思いつつ目覚まし
のスヌーズ機能を止める。そして服を着替
え、テレビの占いを見つつ、朝ご飯を食べ
る。大急ぎで車のエンジンをかけ、仕事の支
度をする。持ち物に忘れ物はないか。今日必
要なものは何か。全てチェックして車に乗り
込む。会社までは車で20分。中途半端に遠
い距離だ。いつものように会社に向かう。少
し眠気を感じたので途中で缶コーヒーを買
う。いつもの朝、いつもの日常、いつもの会
社。私の毎日はいたって普通だ。毎日家と会
社の往復で、仕事仕事仕事の日々。出会いな
んてほとんどない。ありふれた日々の繰り返
しだった。
その日会社にある人物が出向でやってきた。
本社からの出向社員だった。年下でいかにも
スポーツマンという感じの、少しクールに見
える爽やかな青年。仕事が出来そうな彼は、
やはりみんなの注目を集めたのだった。
「野上と申します。好きなことはパソコンいじり。特技はテニスです。よろしくお願いします」
彼はそう自己紹介すると、軽く会釈した。
そして新しい彼用のデスクに座ると、ノート
パソコンを広げ始めた。上司が彼に仕事の指示
をすると、彼は急いで仕事を始めた。みんなの
視線がなんとなく彼に集中している。当然と言
えば当然だが、それでもみんな知らんふりの
フリをして、いつものように仕事をしているの
だった。
「そこの君、コーヒーを一杯くれないか?」
野上さんとかいう人に突然声をかけられて、
ハッとなる。え?わたしのこと?。雑用係とで
も思われたのか、野上さんにコーヒーを入れる
よう指示された。
「はい。すぐお持ちしますね」
そう返事をしたが、そういうのは新入社員の
することだと思った。
「どうぞ」
野上さんにコーヒーを差し出す。
こういうことは最初が肝心だ。ここはやはり
ビシッと言っておかなくてはいけない。
「野上さん。私のほうが年上なんだから、目
下扱いしないでくださいね」
私ははっきり言ってやった。
「なんだ僕より年上だったんですね。かわい
いから年下だと思っていました。これからは
気を付けますね」
「からかうのはやめてください」
本当にからかうのはやめてほしい。でも、
日常に埋もれていた私にとっては斬新な出来
事だった。なんだか、これからいいことある
かも。
誰が開けたのか窓から風が入ってきた。
室内が涼しい爽やかな空気で満たされる。
それは変わらない毎日に新しい風が吹き始め
たのかも知れない予兆だった。これからも仕
事頑張ろう。私は改めて仕事に気合いを入れ
るのだった。
いつもの朝に 森杉 花奈(もりすぎ かな) @happyflower01
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます