ダンジョン世界の貧弱魔術師

りーぱー

心域

——暗い、暗い、暗い暗い

 なにも見えない中私は体も動かさないでいる。身体は何か密閉されたみたいな場所で、息も苦しい。ここは何処なのだろうか?


『里紗、お腹の赤ちゃんは元気そうかい?』

『えぇ、昨日なんて結構蹴ってきたんだから』

『それにしても、この子の魔石はどんぐらいの大きさになっているんだろうな』

『ふふ、楽しみね。あとお腹の大きさ的に後半年くらいで生まれるらしいわよ』

『そうなのか!魔力を持って生まれてほしいな』

『魔力を持って生まれたら苦戦するでしょうね、魔石の感覚なんて私は6歳の時に覚えたんだから』



 何かの会話か、そのような事が聞こえた。ここは、ここは、ここは…

 魔石、これが何かは分からない、けれど探ってみたい。魔力なんてのも聞いた気がする、半年も時間があるらしい。何か掴めるだろう。


 心を研ぎ澄ませ、身体の奥深くにある何か?を探る、不思議とそのやり方が頭の中から出てくる。それを頼りに、血脈から順々に思考していき、ついには心臓まで辿り着く。

 そこでやっと魔石という感覚が、出てくる、魔石をもっと深く、もっと強く連想していき、底なし沼のような力の沼の底の底に辿り着く。

 やっと見つけた、そんな感覚が強かった、私はその感覚をさらに思考の中に拡大していき、一つの空間に辿り着く。其処はウユニ塩湖のような場所だった、天空の鏡とでも表現されそうなその空間はとても綺麗で、幻想的。

 その中の一番目立つところに、それは立っていた。真っ白な髪に色白なはだ、小顔なのに鼻は高く、パーツの一つ一つが綺麗に配列されていて、整っていた。目の色彩は銀を連想させる深い宝石のような色で、身体はか細い。そんな美少女が突っ立っていた。

 私がその子を見ていると、その子はニコッと笑ってこっちに向かって歩き出してきた。

「こんにちは、ようこそ心域へ」

「心域?」

 心域というのがよく分からなかった。だから私はこの状況で一番多くの情報を持っていそうな彼女に尋ねた。

「あぁ、心域って言うのは心の世界、深層心理の体現あるいは、魔術の根幹。貴方の心域は綺麗でしょう?それだけ貴方は真っ新で、何もなくて、天を映し出す鏡のようなそんな空間」

 深層心理の体現..魔術の根幹。その言葉が、妙に真に来る。彼女は優しそうで、私を揺さぶることはしないのだろう。けれど、彼女の言葉の一つ一つに私は何らかの重要性を示している。

「魔術の根幹?ここはどう言ったことの為にあるのですか?そして、貴方は誰ですか?」

「それはね、ここは貴方の心理の世界、魔術とは人の心からくる魔力、マナまぁ何でもいいかな。そんなものを使って、消費して、現実に対して何らかの影響を与える。事象に介入する?改変する?まぁそんなイメージのもの。そしてこの空間はそれが一番体現される根幹、ここによって魔力は増え、ここによって魔術を使えるようになり、ここによって体に介入する。そんな魔術の心臓部分」

「あぁ、私は何っていうのも答えなきゃね、私は貴方だよ、正確には私はもう一人の貴方の体現、元々体に存在した魂、貴方は私と一心同体で、理論的にはおんなじ人」

 彼女が、私?私ともともとここにいた魂?ていうことは私は遺物なんじゃ、なのにどうして彼女は……

—パンッ (手を叩く音)

「っと、まぁ私ごとの説明はこのぐらいにして、貴方にやってもらいたい事があります。」

「それは…、何ですか?」

「とても分かりやすいことですよ。ただ単純に強くなってほしいんです。」

「強くなる?」

「はい、そうです。強くなるんです。と言うのもこの、貴方の体は虚弱なの、なので魔術的な意味で強くなってその欠点を補ってほしい。そして、貴方が魔術的に強くなることで私はリアルに出ることもできるようになります。」

「私はね、外の世界を見てみたい、自由に歩いてみたい、飛んで見てみたいんです。」

 虚弱を補う、つまりは魔術でそう言うこともできるようになるのだろう。私は彼女が外の世界を歩きたいと言うものが本音のように感じだ。きっとこれは本心なのだろう。

「外世界を歩くってどうゆうことなんですか?体を乗っ取るとか、そうゆうのではないんですよね」

「はい、私が貴方の魔術を使い、外に私の実態を顕現させます。それは霊体として顕現もできますし、実体として顕現もできると思います。」

 強くなることに異論はないし、産まれてから話し相手になってくれるかもしれない。

「…わかりました。その強くなると言うものを私は受けようと思います。」

 すると世界が変化した、空が暗くなり、キラキラとした星々が節々に現れる。私たちを星々と、2体の月が照らしてくれている。

「景色が…変わった⁉︎」

「変わりましたね、ここは貴方の深層心理の世界で貴方に何かの影響があればこの世界も変化するのは必然的なことです。それにしても、夜空に2体の月ですか…。素敵ですね。」

 彼女はハニカムように笑う。その姿があまりにも綺麗だった。

「そうですね、月が..綺麗です。」

「はい!では、魔術の特訓をしましょう。」

 魔術の特訓、私はこれに関して何の知識もない。そもそもの魔術についてすら現実に介入すると言うことぐらいしか知らない。

「魔術について、私何の知識もないんですけどどうすればいいんですか」

「そうですね、まずは其処から説明しましょう。魔術というのは魔力を消費することによって現実に介入し、任意自然現象を起こす技術の総称です。その魔術によって起こる現象は多岐に渡ります。簡単というか有名なものだと何も無いところから火や水を出したりとか、地形を多少変形させる、防御の膜を作る、身体を強化する、と言ったものがあります。そして魔術の基礎の基礎と呼ばれるものは自然への理解度と魔力の操作です。まず貴方にやってもらう事は魔力の操作です。それは幼い頃からやればやる程魔力の絶対値は上がります。そして一番最初に覚えてもらう技術のは魔力の隠蔽技術です。魔力を増やす前にこれをしなければ貴方は生後一般的な生活ができないでしょう。」

 大体言いたい事はわかってきた。要は魔術は沢山あるけれど、私には圧倒的に魔力操作技術が足らないからそれを養えと言っているのだ。そして、子供のうちだと魔力量は圧倒的に増えやすいからその魔力を隠蔽する手段を得ろという事だろう。

「言いたい事は分かりました。ではまず魔力の隠蔽技術についてやるわけです?」

「はい、そうなります。魔力の隠蔽はあまりマイナーな技術かもしれません。それは貴方の魔力の絶対量をこの空間に留めておくことによって、そとに漏れ出す魔力の量を維持し、人や機械から見える魔力の量を誤魔化すという技術です。」

 彼女は私に実演して見せた。そして私に触れ、私は変な感覚に襲われる。するとこの空間に巨大な器が形成され始め、その器に蒼色の水が溜まり始めた。

「その感覚を覚えて、今あれに入っているのは今外に出ている魔力含めて、ここにある魔力の量、大体器の20分の一と言った所かな。貴方はこの器に魔力を入れるように意識しながら魔力操作をして欲しいです。」

「分かりました。では、魔力操作の仕方を教えてください。」

「はい、では身体で教えながら説明しますね。」

 彼女は私に座るように促し、私はそれに従いながら座る。彼女は私のお腹から胸、頭の順に触りながら説明を始める。

「これは丹田って言う魔力が最も多く通過するポイントです。魔力の核はここ、ここと丹田を感じて血流を意識しながら魔力を流すのです。」

 彼女が教えてくれた丹田と魔力の核を意識しながら私は血流と共に魔力を流す。それは自然に循環し、体全体に魔力の流動ができた。彼女は次に言い出した。

「魔力の流れが体全体に行き渡りましたね?では、魔力を一点に留める、と言う操作を繰り返して行ってください。まずは足先から。」

 私は彼女の言われるままに魔力を一点に、留めたり、流動させたりと言った操作を繰り返し行っていた。それは足先から膝、腰、腹、胸と段々と上げていき、上丹田、つまりは頭にまで到達していた。

「はい、ではそこから何処でもいいので場所を変えながら同じ操作をずっと行ってください。」

 


 何時間、何日たっただろうか、私はなぜか集中できていて、その操作をずっと行なっている。ただひたすらにその操作を繰り返し行なっていると…。

「一旦操作を中断してください」

「あの、何があったのでしょうか?」

「はい、有りましたね、出すけれど良い報告です。安心してください。良い報告というのはあの器がもう満杯になったということです。それに伴いあれと同等の器をいくつか増やそうと思いまして。それの報告ですね」

「あっ、魔力操作はもう継続していいですよ、それをやりながら私の話を聴いてください。器が満杯になったと言うことで新たにやる事がありまして、それが自然への理解と魔術の発動です。これからは魔力操作と並行してそれを行なっていこうと思います。」

 


 そして、私はそれから小学生から中学3年生ぐらいまでの科学の知識を期限までに叩き込まれることになる。



「では、はじめに魔術について説明しようと思います。」

「よろしくお願いします。」

 私は頭を下げて、教えを乞う姿勢でいる。事実彼女が私の先生ということになるのでその姿勢はさほど間違いではないのだろう。

「では魔術について貴方が知っている事は何ですか?」


「えーと、魔術は魔力を用いて自然に干渉すること…ですか?」

「はい、だいたいその認識で合っています。正確には魔術は、魔力操作を用いて、魔力を魔法陣という形で視覚化し、その魔法陣の魔術式を完成させることによって発動する。世界、すなわち自然に干渉する技術のことを指します。大抵の魔術師はその魔法陣を形成するためのイメージや計算を詠唱することによって補います。また、無詠唱魔術師と呼ばれる魔術師は、魔法陣の完全なる暗記を行っているので、即座に魔術を発動できるわけです。分かりやすく言うなら詠唱とはカンニングペーパーで魔法陣というのは式ですね」

「また、自然への理解度を高めるとその魔術の威力が高まります。それは単純に魔術を発動するための魔法陣にそれらの知識も多少影響するからです。本題として自然について理解していることの利点としては魔術の製作を深く潤滑に行えると言う点にあります。」

「魔術は魔法陣の情報体を組み替えたり、加えたり、減らしたりする事によって威力の上下や効果、動作、必要な魔力量などが変わってきます。基本的に情報の量が多ければ多いほど魔力が必要になってきます。」

「私たちには今のところ関係ないので魔術の製作については頭の片隅ぐらいまでに追いやっておいてください。魔術の製作を行うのはまだまだ先のことですので。」

「私たちがまず行うべき事は魔術の暗記と反復練習です。貴方の得意属性は影と闇です。まずはその魔術からやっていきましょう。得意なことを伸ばしてから苦手なことをやる、そんな方針でやっていきましょう!」


 長い説明は終わった、正確にはその説明は序の序だった。

 あのあと、影属性と闇属性の特色や弱点、使い方を教えてもらったり。便利で補助に使いやすい影属性魔術の第一位階から第五位階まで、攻撃として使える闇魔術を第一から第四位階までというようにこの心域で使えるようになるまで必死に覚えさせられた。

 そうして大体五ヶ月が経った頃…。

「これで今できる最低限の強化と知識を叩き込みました。あとは、この心域で反復練習を行いましょう。産まれるまであと一ヶ月あります。」

「はい!分かりました師匠!」

 私は彼女のことを師匠と呼んでいる。それは私が彼女から教えを乞う立場にある為だ。 

 私は彼女、師匠に感謝しているんだと思う。彼女がいなければ弱い状態で産まれることになる、彼女がいなければ知識がなければ…。

 私には彼女が必要なのだ。だから、私は思う。この世界に囚われて制約に縛られている彼女を、私に勉学を教えてくれる彼女を。
















「……私だけは。私の中でしか生きていけない彼女を尊重しなくてはいけない。」

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