第42話 フィーネの要望

 わたくしたちは夕食を食べ終え、ララは食器を洗ってくれていた。

 ティエラは軽い運動をしてくると言って外に出て行き、マーレはぐったりと転がっている。


 わたくしはフィーネのすぐそば、角っこあたりにイスを動かして座った。


「それでは、フィーネのお部屋の間取りについて話していきましょうか!」

「うん。美味しいご飯を食べてすぐに自分だけの部屋考えるって最高」

「ふふ、確かに自分だけの部屋というのは素敵ですわね」

「そ、エルフの国にいた時もすでにあった部屋だったし、自分だけの部屋……これはデザインをする上でとっても気を付けないと」


 そう言って口元に手を当てて真剣に考え始める。


 なので、わたくしはそれをそっと止めた。


「フィーネ。デザインを大事にし過ぎるより、使いやすさを大事にした方がいいですわ。私室は自分の部屋。もっとも長くいる場所と言っても過言ではないですわ。だから、使いやすさ。過ごしやすさ。これを最優先で考えるべきですわ」

「そっか……ありがとう。確かにそうよね」

「という訳なんですが、まずは部屋の広さはどれくらいにしたいですか?」

「部屋の広さ……」

「想像よりも少し広めがいいですわ。棚やベッドを置いたら手狭に感じることがあるでしょうから」

「そっか……それなら……」


 彼女は立ち上がってベッドの辺り指で指す。


「このくらいがいいかな?」

「ふむ、10畳くらいですね。倍でもかまいませんよ?」

「使い勝手いいのがいいんでしょ? それに、高い所に作るのに、あんまり大きいのも悪いしね」

「ああ、そういえば、何ⅿくらいですか? やっぱり100ⅿは越えたいですか?」

「高すぎでしょ? 登るのにどんだけかかるか分かってる?」

「フィーネならいけるかなって」

「そんな運動神経発揮したことないでしょ……」


 と言って、フィーネは席に戻ってくる。


 わたくしは話を元に戻す。


「では、高さはどれくらいですか?」

「そうね……5ⅿくらいは欲しいわ」

「え? フィーネ悪いもの食べました? そんな遠慮するなんて」

「あたしだってするわよ。っていうか、家に住ませてもらって部屋まで作ってもらうんだから」

「もう、気にしなくてもいいですのに」


 3人で住むより、5人で住む方が楽しいはずだ。

 だから一緒に住んでくれて嬉しいくらい。


「そういう訳にも行かないわよ。っていうか、さっきあんたが言ったでしょ、使いやすさが大事だって、登りやすさもやっぱり大事かなって」

「なるほど、それはそれですわね。では、他に要望はありますか? 窓は何個欲しいとか、風通しは良くして欲しいとか」

「あー。窓は4方向に欲しいかも。カーテンとか4種類用意して、好きな時に見れるようにしたいかも」

「なるほどなるほど」


 わたくしは彼女の言葉を聞きながら、倉庫にしまっていた紙と鉛筆をとりだして、要望を書いていく。


「それから、風通しはいい感じにして欲しいかも。やっぱり風があった方がエルフとしては嬉しい。冬はちょっと寒くてもいいから」

「他には?」

「そうね。登りやすいようにはして欲しいけど、安全性もしっかりと欲しいかしら」

「安全性?」

「そう。高い所に作るっていうことは、誰かが登って来るかもしれないってことでしょ? そうなると、入られないようにしたいなって」

「なるほど、部屋に入る時のことをどうするか……ですか……」


 わたくしはその要望を紙に書き、どうしたらいいのかについて頭を抱える。


 高いところにあるのに入られにくい部屋……。

 入り口を部屋の真下につけるとか? それとも、部屋を開けるにはギミックが必要とか? ああ、でも、窓があるから、そこから入られるか。

 ならいっそのこと登ることを難しくして、どうやって登るんだこれ? っていうようなはしごにするとか……。


「あー難しいならいいわよ? 魔道具とか用意しておくし」

「いえ、その辺りも考えて行きますわ。というか、どういうのが登りやすいのですか?」

「そうね。普通のはしご的なのが一番かな」

「わかりましたわ。ちなみに、他にはありますか?」

「んーとりあえずはそれでいいかな」

「では、とりあえず部屋の感じを作ったので、それを見ていただけますか?」

「早くない? 一緒に設計をしていたはずだよね?」


 わたくしは立ち上がって外に出る。


 外はすでに日が落ちて暗い。

 ただ、空には大きな月と絨毯のような星々が煌めていて、灯りなどなくても明るかった。


 後ろからフィーネがついてきていることを気配で察知して、わたくしはスキルを使う。


「【設計】」


 とりあえずの設計をして、作ろうとしている物をスキルで作る。


 それから、上に続くはしご等の土台を消して、部屋だけにした。


「ではこれから……仮組をして」


 ということで、木の板は沢山あるので、それを10畳くらいにしていく。


「これくらいの広さになりますが、よろしいですか?」

「すごーい。結構広いのね」

「ええ、ここに家具を入れていき、自分だけの部屋を作るのですわ」

「なるほど、じゃあ……このままでいいかしら?」

「ええ、すぐに作ってみせますわ」

「急がなくていいよ」

「いいえ、わたくしが早く一緒に住みたいのですわ」

「……」


 彼女は何も言わずに、わたくしの頭をそっと撫でる。

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