第41話 さん付けはなしで
「この家。わたしも住んでいい?」
ララさんがそう言ったことで、わたくしはのどに唐揚げが詰まった。
「ゴホッ! ゴホゴホ……それは本当ですの!?」
「うん。クレアさんが良ければ」
「もちろんですわ! ティエラとマーレも同じですわよね!?」
「ああ、いいぞ」
「僕はこっちからお願いしたいくらいだよ! 毎日ララのご飯が食べられるなんて信じられないよ!」
ということで、皆大賛成らしい。
「では明日から早速お部屋を作りますわ! ああ、ちゃんとララの作って欲しい感じで作るので、任せてください!」
「いいの? 大変じゃない?」
「大事な方の部屋を作るのは大変ではありませんわ! むしろ嬉しいくらいです!」
「ありがとう」
そう小さく頭を下げてくる彼女はとても可愛らしい。
というか、こうやってお友達と一緒に住める様になるというのはとっても素敵だ。
わたくしは目の前にある料理よりも、ララが満足できるのはどんな部屋か考えてしまう。
彼女が好むような部屋。
今日作った部屋がいいのか、それとも彼女用にチューニングした方がいいのか。
ああ、今からすぐにでも設計したい。
1人考えていると、フィーネさんが小さな声をあげる。
「あ……しも」
「? フィーネさん?」
「あたしも住みたい!」
「もちろんですわ! わたくしもとっても嬉しいです!」
「あ、あの……でも、あたし……求める部屋って……大変になるんだけど、いい?」
料理がいつの間にかマーレによって減り、フィーネの顔が見れるようになった。
彼女は申し訳なさそうにもじもじしている。
なので、わたくしは安心させるように答える。
「もちろんかまいませんわ! むしろ、一緒に住める方が増えて嬉しいですわ!」
わたくしは心からの言葉を叫ぶ。
この家になって、広い、とても広い家だ。
だけど、元々の家では両親に加えてメイドたちも暮していた。
家を歩けば、他の人の誰かが常にいた。
ティエラ、マーレは居てくれることは確かだ。
でも、同性の人が居て欲しい。
そう思うわたくしもいるのだ。
それに、そうやって多くの人がいた方が、ご飯を食べる時も何かをする時も絶対に楽しい。
「わたくしはあなた方を歓迎いたしますわ!」
「……ありがとう」
「ありがとう」
2人は小さくそう言った。
「では、フィーネさんのお願いも聞いておかなくてはいけませんわね。どのような部屋がよろしいのですか?」
わたくしはそう言って、近くにあるイノシシのステーキを切って口に運ぶ。
思わず目を見開いてしまう。
それはとても弾力があり、歯で噛もうとしても押し返してくる。
ただ、それをかみ切った時に溢れ出る肉! という味がこれが本当の肉かと思わせてくれた。
アゴが疲れてしまうのが難点だけれど、それに見合うだけの美味さがあった。
そんなことを思いながら、フィーネさんの要求を聞く。
「あたしはエルフだから、できれば……高い所に住みたいの」
「高い所ですの?」
「そう、エルフって森に住んでいるんだけれど、基本は木の上に家を作っているの。だから、後ろの山の木々が見えるように、そして、周囲を見下ろせるように、高い場所に部屋が欲しいんだけど、いいかな?」
「もちろんですわ。以前見張り台を作ったことがあるので、それを強化した感じで作りましょうか。部屋の間取り等もどれくらいがいいとかありますか?」
わたくしはちょいちょいとご飯をつまみながらフィーネさんの部屋作りを想像する。
高い所……どれくらいの高さがいいのでしょうか。
10ⅿくらいあればいいのでしょうか?
ああ、でも日本では高い……634ⅿの高さもありますし、それくらいのでも……。
ただ、木で作るのは厳しいでしょうか。
そんなことを考えていると、フィーネが話を止めてくる。
「クレア。確かに、その話はありがたいし、うれしい。だけど、まずはそれを作る料金の話をしない?」
「別に無料で作りますよ? 素材も余っていますし、簡単に作れますから」
「それはダメよ。あたしもあなたもそれを仕事にしているプロ。だから気軽にやるとか言ってはダメよ」
「そうなのですか?」
その辺りはわからない。
「だって、そうやってあなたが気軽に外の人の建物を作っていったら廃業してしまう人が出てしまう。それはあなたにとっても良くないわ」
「それは……確かに良くありませんわね」
「でしょ? だからちゃんとしっかりとするの」
「でも、わたくしがそうするのはフィーネだからで、他の人にはしませんよ?」
わたくしがそう言うと、フィーネさんはちょっと顔を赤らめた。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど……でも、ちゃんとしないとダメ」
「では、どうするのですか?」
「あたしたちって、ちょうどいいと思うの」
「ちょうどいい?」
彼女はフィーネ、ララ、わたくしを順番に指して言う。
「衣、食、住。あたしたち、綺麗に別れているとは思わない?」
「そういえばそうですわね」
「だから、服が必要になった時はあたしが、食事が必要なときはララが、住居が必要になった時はクレアが。それぞれを力を貸す。ということでどう?」
「とってもいいですわ! あ、ついでに家具も作りますわね」
「それはやりすぎでしょ」
「デザインはフィーネが手伝って下さいませ?」
「……分かったわよ」
「わたしもいい」
わたくしとララもそれに賛同する。
フィーネはニカッと笑う。
「そ、じゃあそれで行きましょ。これからよろしくね」
「ええ、こちらこそよろしくお願いしますわ」
「よろしく」
ティエラとマーレは食事をしながらも、歓迎してくれていた。
「あ、そうだ。一つ……付け加えたいことがあるんだけど、いい?」
「なんですか?フィーネさん」
「それ」
「それ?」
「さん付けはなしにしましょう? あたしはクレアとララって呼ぶから、2人もあたしのことはフィーネ。って呼んでちょうだい」
「いいのですか?」
「その方が嬉しいの」
そう言われて、わたくしはララさんと目をあわせる。
なんとなしに同時に頷き、彼女を呼ぶ。
「「フィーネ」」
「ええ、これからよろしくね」
ということで、わたくしたちは一緒に住むことになった。
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