第36話 ドワーフの宿舎

 皆で楽しく食事会をした翌日、わたくしはティエラとマーレを連れて『土小人のかまど亭』に来ていた。


「おまたせしましたわ」

「ううん。今来たとこ」


 そう言葉をくださるのはララさん。

 昨日食事会をした後に、翌日から早速仕事をすることにしようという話になったのだ。


「そうなんですのね。それで、作って欲しい家……というのはどういう所なんですの?」

「案内する。こっち」


 彼女はそう言ってテクテクと歩いていく。


「そういえば、その宿舎は何人くらいいらっしゃいますの?」

「確か20人くらい? 『土小人のかまど亭』の場所だけど、ウチで働いていないドワーフも住んでたりするから」

「なるほど、これはこれで大きなお仕事ですわね」


 金額等から分かっていたことだけれど、相当大きな建物になるだろう。


 わたくしたちが彼女について行くと、小さな小屋のような物があった。


 縦横高さ各3ⅿくらいの大きさで、わたくしの家の半分以下だ。


「あれにドワーフ全員が入ってるのか? ぎゅうぎゅうにならないと家じゃないとかいうタイプの種族だったか?」


 ティエラが言いにくいことを言ってくれる。


 しかし、ララさんは首をかしげたあと、首を横に振る。


「ううん。普通の家だよ」

「普通の家……普通の家?」

「これが……」


 ララさんの反応にわたくしとティエラは考えながら家に近づいていく。


 そして近づけば近づくほど、小さな石造りの小屋にしか見えない。


「じゃあ入って」


 ララさんがそう言って、小屋の扉を開ける。


「あ~そういうことですの」

「なるほどな」

「?」


 小屋の中には地下へと続く階段があり、どうやら地下が普通の家になっているようだった。


 ただ、


「僕は外で待ってるよー」


 マーレは身体のサイズ的に入らない。


 わたくしたちは彼を置いて、地下への階段を降りるのだけれど……。


「あの、灯りってないのでしょうか? 前が見えないのですが……」

「……ドワーフは夜目が効くから……忘れていた。ごめんなさい」

「いえ、それは仕方ないことですわ」

「確かここをこうして……」


 ララさんが壁際でごそごそすると、カチッ、と音がした瞬間に周囲がぼんやりを明るくなる。


「今壊れてるから、あんまり明るくならない」

「そうなんですのね。でも、これだけ明るければ見れますわ」


 ということで、壁一面は土……それも粘土か何かでがっちりと固められている。

 触り心地はすごく固い土という感じだろう。


 そうして地下に降り切ると、左右に部屋が12部屋ずつ並んでいた。


「手前の左2つは食堂、キッチンと食材保管庫。右2つはトイレと浴室。それ以外は個人に部屋」

「なるほど、入ってもいいですか?」


 個人の荷物等もあることだし、確認してからにしなければならないだろう。


 わたくしの質問に、ララさんは小さく頷く。


「大丈夫。もう荷物は全部出してあるはず」

「分かりました。では確認して行きますわね」


 食堂は10人程度が座れるテーブルとイスのセット。

 ここは特に壊れていない。


 キッチンと食材保管庫も特に問題はない。


「そこは特に大事なところだから、念入りに補修してある」

「なるほど、わかりましたわ」


 そして、トイレと浴室も水を使う関係からか補修してあったので問題なかった。

 問題があるのは、個人の部屋だった。


「10部屋中8部屋がどこかしら破損していましたわね……」


 壁の土が水で濡れたからか、部屋の中に泥を撒き散らしてあったり、そもそも天井が抜け落ちているなんて部屋もあった。


「これ……中にいた方は大丈夫なんですの?」

「仕事でほとんど外にいたから問題ない。むしろ、私物が泥まみれで泣いていた」

「それは……お気の毒に……」

「次の日にはご飯食べて働いて、新しいのを買うって元気になってたけど」

「たくましいですわ」


 そのメンタルは見習いたい所だ。


 わたくしはそれから、【ハウスメーカー】の【設計】を発動させ、どう補修をしていくべきかを調べる。


 補修だけなら粘土をとってきて、それを壁に塗っていくだけということだ。

 なら、そこまで難しいこともないだろうか。


「では、早速壁の材料になる粘土を取りに行きましょう。ララさん、その粘土がどこにあるのかご存じではないですか?」

「知ってる。山のどこか」

「ど、どこかですの?」

「うん。山にあるって聞いた」

「なるほど……では、探しに行きましょうか! 山は前に行ったばかりなので、きっとすぐに見つかりますわ!」


 ということで、わたくしはティエラとマーレを連れて、山に行く。

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