第35話 家具作り

「ただいま戻りましたわー」

「お帰り。早かったな」


 わたくしが家に入ると、ティエラは集中するフィーネの側で返事をする。


「少々事情がありまして。フィーネさん。少しよろしいですか?」

「ん……どうしたの? 机はもうちょっとかかりそうなんだけど……って、ドワーフ?」

「はい。こちら『土小人のかまど亭』のララさんです。そこで料理を買おうとしていたのですが、事情があって店がしまっているとかで、買えなかったのです」

「それで料理人をさらってきたの? 流石クレアね」

「さらってはいませんわ!? でも、このララさんが料理を作ってくださるそうで。それで、このララさんも一緒に夕食を共にしようと思っているのですが、かまいませんか?」


 一応招待した客が増えるのだ。

 確認はとっておかなければならないだろう。


 フィーネさんは気にしないと言う様に手を軽く横に振った。


「いいわよ。というか、これだけ大きな机を作ったのなら、もっと人を増やしてもいいくらいよ」

「ありがとうございますわ。ではティエラ、ララさんに協力して簡易キッチンを作ってくださいますか?」

「ああ、かまわない」

「よろしくお願いします」

「クレアは何をするんだ?」


 そう聞いてくるティエラにわたくしは胸を張って答える。


「イスをささっと作ってしまいますわ!」

「そうか……それもそうだな」


 ということで、それぞれが手分けをして夕飯の準備にかかる。


 わたくしはみんなの分のイス作り。

 フィーネさんはテーブルの仕上げ。

 ティエラと、マーレとララさんはキッチン作りとその後調理だ。


 わたくしが考えるのはまずは全員がちゃんと座れて安全なイスだ。


 一度普通のイス、自分用のイスを作ってみてからだろう。


 ということで、完成した。


 デザイン性に凝る訳でもなく、特徴的な物を作る訳でもない。


 普通にそこら辺にあるイスを作るのであれば、わたくしの【ハウスメーカー】で簡単に作れる。

 フィーネさんのイスはわたくしと同じ感じで作っても問題ない。

 ララさんのイスは少し高くなるように作り、足置きもつけた。


「これで3人は問題なし。後はマーレと……ティエラ用のイスをどうするかですわね」


 ティエラのイスは座面を大きくして、彼が座りやすい様にするべきだろう。

 そのように作ったけれど、問題ないだろう。


 ただ問題があるとしたら、マーレのイスだ。


「強度はどれくらいあげなければいけないのでしょうか……」


 マーレは見た目通りかなり重たい。

 なら、それを支えられるようなしっかりとしたイスを作らなければならない。


ぬきを設ければいけますかね」


 貫とは、ベンチとかの下にある横に一本伸びている棒のことだ。

 これがあると強度をあげることができる。


 ということで、マーレのサイズに合うように作ってみた。


「マーレ! 一度座ってくださいませんか?」

「分かったよー」


 マーレはのしのしとわたくしの方に歩いてきて、イスにドカリと腰を降ろす。


「うんうん。すごく頑丈だね! これなら安心して座れるよ!」

「本当ですか? 良かったですわ」

「うん。料理も完成したみたいだし、机も大丈夫そうだね」

「ええ、それでは……早速食事にしましょうか」

「待ってました!」


 わたくしはイスをちょうどいいように並べていく。


 そうしていると、キッチンを作られた方から次々と料理が運ばれてくる。


「あの……一体どれくらい作られたんですの?」

「いっぱい」


 ララさんはとても嬉しそうな笑顔で料理を運んでいた。


「もしかして……料理を作って下さったのは、料理がしたかったから……ですか?」

「そう。わたし料理をいっぱいしたいの」

「なるほど……」


 それから、フィーネさんと共に作った縦横5ⅿ×2ⅿのテーブルいっぱいに料理が並べられた。


 こんな短時間で良く作れたものだと思う。


「それじゃあいただきまーす!」


 マーレは真っ先に近くの山のように盛られた山盛りの肉に手を伸ばす。


 他の皆も、おもいおもいの料理に手を伸ばしていた。


「わたくしは……これからいただきましょうか」


 近くにあった大きな貝の蒸し焼きをとり、ナイフで切り分けていく。

 フォークで刺して口に運ぶと、バターの濃厚な香りと、まるでミルクのようなクリーミーさが口いっぱいに広がる。


「美味しい……すごいですわ」


 わたくしは目を見開いてララさんに言うと、彼女は口元を少しだけ吊り上げて答える。


「ありがとう。こちらこそ色んな食材が使えて楽しい。それに、このイスもとっても使いやすい」

「こちらこそありがとうございますわ」


 わたくしたちはそんな話をしていると、隣にいたティエラがおそるおそる声をかけてくる。


「ク、クレア」

「どうしたんですの?」

「その……このイス。使いやすいぞ。俺のために……ありがとうな」

「いいえ、家族のためですもの。当然ですわ」

「……それでもだ」

「ふふ、そうですわね。でも、もっとあなたが使いやすい様に作るので、その時は意見をくださいな」

「当然だ」


 わたくしたちはそんな話をしたり、お互いの話をしながら、夜は更けていった。

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