第19話 ルーシー視点 クレアという少女

 私はルーシ―、手工業ギルドで働く普通の獣人だ。

 今日はクレアさんが来てくれるのを心待ちにしながら仕事をする。


「次の方どうぞー」

「失礼しますわ!」

「クレアさん。受け取りに来て下さったのですか?」

「はい。それと、ルーシーさんに来ていただきたいことがありまして」

「かしこまりました」


 一体なんの用事だろう?

 そう思うけれど、昨日はロックゴリラの肉をあんなにも卸してくれた人だ。

 彼女自身も優しく、丁寧な振る舞いは見ていて安心できる。


 一緒にいるティエラという狼型の魔物は知性を感じるし、マーレという熊の魔物は今はいないけれど、底知れない恐ろしさを感じた。


「では、とりあえず昨日の換金からでよろしいですか?」

「はい。もちろんですわ」

「では、木札を」

「こちらになります」

「はい。確認しました。肉は全てが上質でしたので、1体につき1000レアード、それが4体になりますので、4000レアードになります」

「はい。確かめましたわ」

「ありがとうございます。クレア様が良ければまたお願いします」


 正直、冒険者ギルドに持って行った方がいいと言ったのに、どうしてこちらに卸してくれるのだろうか。

 その方がうちとしては助かるけれど、彼女にメリットはないように感じる。

 それでも、彼女はなぜが卸してくれた。


 こちらとしても、そんな彼女をぞんざいに扱うことはできない。


「ええ、それで、わたくしの家が完成したのですが、少し見ていただけませんか? 建築業を始めると言ったと思うのですが、どれくらいの値付けをした方がいいのか等といったことの相談をしたいんです」

「もちろん、構いませんよ。少々お待ちください」

「はい」


 私は後ろに控えている人員に交代を頼むと、クレアさんとティエラさんと共に彼女が買った土地に向かう。


 私としては、基礎が終わって、これから建てる設計図でも見せられるのか。

 それがいくらになるのか……と思っていたのだけれど……。


「もう……完成しているんですか」

「ええ、かなり簡素な作りではあるのですが……」


 クレアさんは自信がなさそうに言うけれど、私の見立てではかなりすごい。


 外は壊れた時に修理しやすいような形になっているし、地面もかなり基礎がしっかりと作ってあって建物が傾くことはなさそうだ。

 屋根は確かに石が置かれていたり、かなり簡素な作りではあるけれど、1日という速さを考えたら確実に役に立つだろう。


「これは……すごいですね……」

「本当ですか? ありがとうございます。中も見てくださいませんか?」

「いいんですか?」

「もちろんです」


 ということで、私は建物の中を案内された。


 なんということでしょう。

 外側だけはなんとかがんばって作ったのかと思ったら、家の中もかなりしっかりと作られていた。


 家の中はだだっ広い空間でしかないが、柱の安定感たるやわたしがタックルをしてもびくともしないだろう。

 床はフローリングで、綺麗に敷き詰められていて美しさすら感じる。

 私は問題なくても、マーレのような熊が乗ったら軋みそうと思ったら、マーレが寝ころんでいるのを見ても何ともない。

 たった1日、突貫で作ったとは到底思えない。

 素晴らしい出来の家だった。


 王都かどこか……いや、木を使っているから王都ではなく他国……東方の国だったりするのだろうか。

 少なくともこの国の建築様式とはかなり違っているように思う。


「いかがでしょう?」

「クレアさんは……どこかで建築を習ったのですか?」

「それ……は……そうとも言えますし、言えないような……」

「なるほど」


 言えない何か……事情があるということで確定か。

 なら、彼女に居てもらうためには、これだけの技術力を持つ彼女をこの街に居てもらうためには、詮索はしないようにしよう。

 それどころか、上に掛け合っていい仕事を回したりした方がいいかもしれない。


「それで、家の方はどうでしょうか? これくらいを作ることが出来れば依頼が来ると思いますか?」

「そうですね……」


 私は少し考える。

 彼女の腕であれば、きっとすぐに来るとは……思う。

 でも、それよりも確実な方法がある。


「大丈夫だと思いますが、私から提案したいことがあります」

「なんでしょうか?」

「手工業ギルドに依頼される仕事を受けてみませんか? というか、一度見に来ませんか? クレアさんの仕事は素晴らしいです。しかし、この街にはこの街の建築様式という物があります。もちろん、様々な種族がいるので、絶対ではありませんが」

「はい」

「ですので、そういうのを勉強……いえ、クレアさんの場合確認するためだけに受けてみるのもいいのではないでしょうか。一度仕事を受けて、この街の方と繋がりを作っておくということもできますし」

「なるほど、そういった仕事を見てから……ということでもよろしいのですね?」

「はい」


 私は誠意を尽くして彼女に答える。


「なるほど、それもそうですわね。一度みんなと話してからでもいいでしょうか?」

「はい。いつでもお待ちしております」

「ありがとうございます。ルーシーさんのお陰でここに居られそうです」

「!」


 やはり……彼女はこの街が相応しくないと思ったら出て行くつもりだったのかもしれない。

 私は、これからも彼女のことをしっかりと丁寧に対応していこうと誓う。

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