第11話 カレドニア

「おはようございますわ」

「おはよう、クレア。到着したよ」

「到着? どこにですの? マーレ」

「どこってカレドニアだよ」

「……わたくしの記憶違いでなければ、カレドニアまで1か月はかかると聞いていたのですが」

「僕たちの足は速いからね。クレアを驚かせようと思って」

「確かに驚きましたけれども!」


 と、わたくしは答えながら、木々に挟まれた道を進む。

 道は真っすぐ続いているが、前も後ろもただの一本道があるだけだ。


「ここがカレドニアへの道なんですの? 海沿いの街と聞いていましたが……」

「この道で合ってるよ。クレアは習ってないの?」

「わたくしが習ったのは、カレドニアは海沿いの街で、そこから近くの大陸との中継地点や、島国との交易で栄えている……というくらいですわ」

「なるほどね。なら仕方ないか。そこに加えて、周囲を山と砂漠と森で囲まれているんだよね」

「どんな地形ですの? それ」


 それからマーレの話を聞くと、カレドニアを中心として、東を森、南を砂漠、西を海、北を山とされているらしい。


「もうちょっといい場所はありませんの?」

「環境もちょうどいい塩梅で、色んな種族が暮らしやすいらしいよ。それに、カレドニアの港は形や大きさ的にすっごく使いやすいらしいんだって。これ以上となると、すっごく南のバロルとかにいかないとないね」

「そうなんですのね」


 ということの説明を受けて、わたくしたちは歩き続けた。


 それから1時間もすると、カレドニアに到着する。


「ここが……カレドニアですの……」


 わたくしたちは北……山の方から進んでいたらしく、山の上からカレドニアを一望する。


 街並みは様々な種族が暮しているからか、大きさや形も千差万別。

 わたくしたち人間の家もあれば、巨人のための家も見つかる、それにフェアリーなどのための家の集合住宅等もあるようで、とても心踊る。

 王都では確かに色々な種族がいたけれど、基本は人間国家の王都、住んでいる者は人間が多かった。


 でも、ここから見る景色だけで、様々な人々との交流を思い描ける。

 とても没落してきたとは思えない場所だった。


「ああ、お母様、いえ、お父様かしら。没落して下さってありがとうございます」

「それはどうなの……」

「クレアはこっちの方がいいのか?」


 隣を歩いているティエラが聞いてくる。


 わたくしは彼に向かって答えた。


「ええ、わたくし、記憶が蘇ったと話したでしょう? その時の記憶で、異種族というのにとても興味がある方だったようですの」

「そうなんだ」

「はい。そういった方々の住処を考えていくならこうだろうな……とか、という感じで趣味でやっていたくらいなのです」

「そうなんだ。それで建築関係のスキルはちょうどいいね」

「ですわ。わたくしもその想いを受けてかそうしてみたい。という気持ちはありますわ」

「なら、まずは街にいかないとな」

「ええ」



 それからわたくしたちは歩いて街に向かった。


 そして驚くことに、街だと言うのに塀がなかったのだ。


「守りはどうされていますの……?」

「ここは色んな国が行き来していて、それでどの国も欲しがるみたいなんだよね。だから、どこの国が抜け出さないように、こうやってあえてあけているんだってさ」

「そうなんですの」

「それに、そんな理由での侵攻は神獣が許さないんじゃないかな」

「なるほど、それもそうですわね」


 神獣、それはこの世界に存在する神の代弁者とも呼べる存在だ。

 神が神獣を遣わし、その神獣が国に介入することも稀にだけれどある。


 その指示は絶対とされ、破れば神の代弁者たる神獣の力を見ることになると言われていた。

 地を裂き、山を穿ち、海は干上がり空は漆黒に染まる。

 そんなことが起きると言われていた。


「神獣なんておとぎ話だろう」


 そう言うのはティエラだ。


「そうなんですの? 時々どこかで出たって聞きますけど」

「大抵噂だからな。気にするな。それよりも街に入ろう」

「そうですわね。レッツマチブラですわ!」

「なんだそれ?」


 そんなことを話しつつ、わたくしたちはカレドニアの街を歩く。


 山の上から見たとおりの光景で、様々な種族の人たちがこれでもかと歩いている。

 途中、すれ違った数は30を越えた辺りから数えるのを止めたくらいだ。


 様々な種族の人たちが歩き、楽しそうに喋っている。

 オーガの肩にフェアリーが乗って、ケンカしながら歩いていた。

 ケンカと言ってもお互い笑っていて、じゃれあっているというレベルだ。

 ラミアは赤子を大事そうに抱えて歩きいているし、ケンタウロスは堂々をした表情で歩いている。

 アルラウネは日光浴をしながら進んでいるし、ゴブリンは兄弟なのか楽しそうに歩いていた。


 わたくしたちはのんびりと歩きながら、街中を見て回った。


「この街……とても楽しそうで、温かいですわね」

「そうだね。とってもいい場所だと思うよ」

「俺も好きだぞ」

「ええ、では……やはり一度ここに住む。ということでいいでしょうか。お母様にも勧められましたし」

「賛成」

「同じく」


 マーレとティエラも頷いてくれるので、わたくしは高らかに宣言する。


「では、わたくしたちもここに住みましょう!」

「おおー!」

「ああ!」


 わたくしは拳を挙げてそう高らかに言うと、周囲の方々がチラチラと見ていることに気づき、顔に血が昇るのを感じながら走り出した。

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