第9話 見張り台

「それでは早速やっていきましょう!」


 わたくしはティエラとマーレを連れて村に戻ってきた。

 その後、衛兵さんに見張り台を直していいかと許可を取り、壊れている場所に案内してもらった。

 村から5分ほど歩いた場所で、村からギリギリ見える程度の場所だ。


 魔物が来たら逃げると言うことを話すと、衛兵さんはありがとう、気を付けてくれと言って帰ってくれた。


 という訳で、わたくしは見張り台の修理に取り掛かる。


「これが見張り台……ですのね」


 わたくしたちの前には高さ5、6mはあったであろう見張り台が、無残にも地面に倒れていた。


「これができるなんて結構な魔物だね」

「ですわね……できれば、この魔物が来てもなんとか耐えられる物を作りたいのですが……」


 わたくしはこれを修理出来るか考える。

 というよりも、少し思っていたことがあった。


 わたくしのスキルは【ハウスメーカー】。

 このスキルを使った時に出てくるのが、

・設計

・加工

・建築

・解体

・倉庫

 という順番なのだ。


 だから、もしかして、設計……ということからしなければ、このスキルの真の力は発揮できないのではないかと思う。


 まずは設計できるように、倒れている見張り台を中に入ったりして、入念に調べる。

 それから、スキルを使った。


「【ハウスメーカー】! からの【設計】!」


 ブゥン。


「わお!」


 すると、わたくしの目の前に、この見張り台が半透明になって浮かび上がる。

 高さは想像通り6mも行かないくらい。

 地面からは木を組んで4mくらいまでの高さになる。

 そこから先は木の板で四方を囲まれ、上半分は周囲を見れるようになっている。

 その上には屋根がつけられている建物だ。


 ここで森からくる魔物を監視するための大切な建物のため、わたくしは全力で作る。


 設計のスキルには、その部分に、どんな素材がいるのか、ということが浮かんでいる。

 わたくしはそれに合うように、倉庫から木をどんどんと出していく。


 「さて、ではこれで……ティエラ、伐採の時に使った斧を出してくれませんか?」


 危ないからということで取り上げられたけれど、今は必要だ。


「それを加工するんだよね? ならこっちかな『鉄鋸作製クリエイト・アイアンソー』」

「さっきよりも使いやすいですわ! ありがとうございますわ!」


 ということで、ティエラに貰ったのこぎりで木の枝などを切り落とし、形を整えていく。


 そして、形を整えた所で早速……と思った所で、視界の設計に目の前の素材が使えないと表示される。

 どうして……と思ったら、異世界の知識が助けてくれた。


「まだなのですわ!」

「どうした急に」

「ビックリしてお腹減っちゃったよ」

「それはビックリしなくてもなると思いますわ。でも、確かにご飯も買いに行かないといけませんわね」

「それで、どうしたの?」


 わたくしはマーレの言葉に優雅に答える。


「見張り台を今から作り直そうを思ったのですが、この木材はそのまま使うことが出来ないのですわ」

「そうなの?」

「ええ、さっき伐採してきた木は中に水分が残っているらしく、水分を飛ばしてからでないと形が変わってしまうのですわ」

「じゃあここに来るまでに見た柵が曲がっていたのも……」

「ええ、それですわ。ですが、わたくしは優雅な建築家」

「初めて聞いたよ」

「ですので、できることはちゃんとやりたいのですわ」

「そう……それでどうするの?」


 わたくしはマーレに自信たっぷりに言う。


「この木材を乾燥させて、水分を抜いてから建材にするのですわ!」

「どれくらいかかるの?」

「2年ほどかしら……?」

「お腹ペコペコで死んじゃうよ」

「そっちか? 今はそっちの話じゃないと思うが?」


 マーレの言葉に、ティエラがそう言う。


「だって2年も何も食べないのは辛いよ」

「そのころには魔物は退治されてるよ……。衛兵も1か月くらいでできるって言ってただろう?」

「そういえばそうでしたわね。ではこのまま作るしか……」


 なんと悩ましいことでしょう。

 わたくしともあろうものがそこを見落としていたとは。

 乾燥させるには時間がかかり、それをしないと形が崩れてしまう。


「終わりですわ……どうしたらいいのでしょうか……」

「クレア」


 わたくしはORZと凹んでいると、ティエラが優しく言葉をかけてくれる。


「クレアのスキルに乾燥させるものとかないのか? 家を作るのに使えるんなら、あるんじゃないかと思ったんだが」

「それですわ! 【ハウスメーカー】」


 わたくしはスキルを発動して、色々といじくってみる。

 すると、【加工】の欄を触ると、そこから色々な種類の中に【乾燥】という項目があった。


「これですわ! まずは木を手で触れて……【乾燥】!」


 わたくしがスキルを使うと、目の前の木から一瞬で何かが抜けていくのが分かる。


「これで……出来たのでしょうか?」


 正直見た目の変化はわからない。


「お、すごい。かなり水分飛んでるね」

「マーレは分かるのですか?」

「分かるよ。これでも水に関しては結構見る目あるんだよ」

「そうなのですね。それでは早速建てて行きますわ!」


 わたくしはスキルを使って木材を乾燥させる。

 ある程度の量が出来たら、早速作製に取り掛かっていく。


 まずは高さを出すための下の部分、この部分は木に穴を開け、そこに他の木を差し込む様にして作っていく。


「クレア。僕たちも手伝うよ」

「いいんですの?」

「うん。見張りはティエラだけでいいからね」

「ありがとうございます。それなら、印を着けていく所に穴を明けていって欲しいですわ」

「こう?」


 ヒュン。


 マーレが爪を振ったかと思うと、次の瞬間には想像通りの穴が開いていた。


「素晴らしいですわ!」

「まっかせてよ! ご飯楽しみにしているね!」

「分かりやすくて流石マーレですわ」


 下の高さを出す部分が完成したら、後は上の所。

 といっても、わたくしはスキルを使っていると言っても初心者。

 あんまり高度なことはできないので、簡単に床板と壁を作っていく。

 その時に使うのはティエラに作ってもらった釘とトンカチだ。


 後は柱に沿って屋根を作る。

 そこまで頑丈に作っている訳ではないけれど、まずまずではないだろうか。


「出来ましたわ! マーレ! 来て下さいまし!」

「僕? 壊れない?」

「壊れないかどうかのチェックですわ!」

「なるほど」


 ということで、最後の安全点検として、マーレに乗って貰ったけれど、びくともしない。

 なので、これで……。


「完成ですわ!」


 これは優雅と言ってもいいだろう。


「すごく綺麗に作れてる! 流石クレア!」

「うんうん。この丁寧さはやっぱりクレアだから出来ることなのかな」


 ティエラとマーレもそう言って褒めてくれる。


 自分でも納得できていただけに、とても嬉しい。

 周囲を見回すと、日が落ちかけていることに気づく。

 ずっと集中していて気づかなかったらしい。


「ですわよね! とてもいい仕事が出来たので、お腹が減ってきましたわ! 日が落ちる前に終わって良かったですわ! ご飯でも食べに行きましょう!」

「だね!」

「待ってました!」


 ということで、わたくしたちはのんびりとしながら、日が落ちかけている村の中に戻っていきました。

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