第2話 異世界との違い

 わたくし達は深夜の街道を進みながら、ティエラとマーレとお話をする。

 内容は異世界とこちらの違いについてだ。


「そういえば、異世界とこっちってどうなの? 結構違う感じ? 異世界の方が進んでるっていうか、美味しいもの多いって聞いたことあるけど」


 そう聞いて来るのはマーレ。

 食べることが大好きすぎて自分で調理出来ないかといつも考えている熊だ。


「そうですわねぇ。結構美味しい物があるみたいで、レシピとかも知識にありますわね」

「本当!? それなら作ってよ!」

「……優雅に善処いたしますわ」


 料理はほとんど作ったことはないので、少しばかりの不安がある。

 正確に言うと、メイドには頼むからキッチンに立たないで欲しいと遠回りに言われて以来作っていない。


「うんうん。どんなのが食べられるのかな。楽しみだ」

「食べ物以外に何か違いとかあったりしないの?」

「そうですわねぇ。ああ、時間とかは違っているかしら」


 それから、わたくしはこちらの暦とあちらの暦の違いや時間の違いについて話す。


 こちらも1日は24時間だ。

 けれど、1年は364日で、1月は基本的に28日。

 ただし、三、六、九、十二の月は35日ある。

 一、二、三の月と増えて行って、十二の月の後にまた1の月に戻る。

 そして、その月に対しても、異世界とこちらは違っている。

 こちらの暦は一月を柘榴ざくろ月、2月を紫水晶月、3月を藍玉月それから、金剛月、翠玉月、真珠月、紅玉月、橄欖かんらん月、蒼玉月、淡泊月、黄玉月、瑠璃月となる。


 基本は28日あって、藍玉、真珠、蒼玉、瑠璃の4つの月は35日になるというふうだ。


 なので、2人にはその違いを結構詳しく説明した。


 わたくしの説明に、マーレは頷いて納得する。


「へぇ月ごとに何日あるか違ってるとか、そんな1年を分かりにくく分けているとかすごいね」

「ですわねぇ」

「それじゃあ魔法はどうなっている?」


 ティエラはそう言って興味深々だ。

 でも、その期待には添えない。


「残念ながら魔法……という技術は存在していないらしいですわ。科学? という学問があって、それのお陰で魔法というものはおとぎ話らしいですの」

「なるほど……じゃあこっちの魔法とあっちの魔法が混ざらなくていいな」

「それが……そうでもないんですの」

「どういうことだ?」

「あちらの世界は結構科学技術が発達していて、本や物語がかなり溢れていますの。だから、その話ごとに魔法の設定が違ってどれがどうなのかわからないことがあるんです……」

「そうか……じゃあ、ちゃんとこの世界の魔法を教えておこう。明日15歳だし、いいだろう? マーレ」


 ティエラはそう言ってマーレに向きなおる。


「そうだねぇ……危なくない魔法だったらいいよ。それと、夜だから目立たない魔法ね」

「分かった。じゃあクレア。魔法ってどんなものか分かるか?」


 わたくしはティエラに自信を持って答える。


「当然ですわ。魔法は魔力を使い、想像を現実にするものですわ」

「その通り、属性は土、水、風、火から付与魔法に回復魔法、色々な魔法があるんだ。これはその人によって使える使えないが別れているから、やってみないとわからないね」

「ええ、そして、人間種は魔法を使える者の方が少ない。ということも知っていますわ」

「だね。代わり……っていうかわからないけど、エルフだったり、フェアリーだったりは例外なく使えるんだ。それも種族によって違う」


 ティエラは子どもが習うことをおさらいのように話してくれる。


「という訳で、クレアの属性から知るっていうことをしようか」

「わたくし、魔法が使えますの?」

「当然だよ? クレアの身体には結構な魔力が眠ってるっぽいし」

「本当ですの? 両親からは魔力がないから使えないと言われていましたが……」

「あ……大丈夫。ちゃんとある」

「ちょっと抜けてるから適当に使って事故が起きそうとか思っていた訳じゃないと思うよ」

「マーレ? それ答えだと思うのですが?」


 流石のわたくしでも気づきますわよ?


「いやー子どもには基本的にそう言って魔法を教えない家も多いらしいから、気にしなくていいよ」

「そうなんですのね。なら今からでも教えて欲しいですわ! というか、異世界からの民は基本全属性使えるそうなんですの! わたくしも期待していいのかしら!?」


 異世界から転生、転移してくる方々は神様サービスマシマシでとってもすごいことになっていると知識が教えてくれますの。


 なので、わたくしも気持ちがはやってしまって、ついついマーレに詰め寄ってしまう。


「そうだねぇ……じゃあちょっと調べようか」


 ということで、歩きながらわたくしの魔法適性を調べることになりました。


「どうやって調べるんですの?」

「これを使うよ」


 そう言って、マーレはどこからともなく水晶玉を取り出す。


「それは……?」

「これは中に全属性の魔力が入っていて、触れた人の魔力に反応して使える魔法が活性化する。っていう代物だよ。火属性が使えるなら火が浮かぶし、強化魔法が使えるなら肉体っぽい光が浮かび上がる」

「肉体……? 便利な物がありますのね」

「こういう魔道具は結構役に立つけれど、やっぱり価格も高いから簡単に得られるものではないけどね」

「では早速触ってみても?」


 どんな魔法が使えるのかはやはり知りたい。

 全属性でなくても、それなりの数を使えると嬉しい。


「いいよ。はい」

「では早速」


 わたくしがそれを持つと、水晶の中には様々な物が浮かび上がる。

 火、水、土、風?、光、闇、肉体等々、なんかすごいパーティでも開かれているようだ。


「これは……何属性ありますの?」

「全属性あるね……」

「まじですの!?」


 結構異世界の知識で適当に言ったのに……。

 これで好きに魔法を使って……。


「じゃあ魔法は基本禁止だね」

「なぜですの!?」


 せっかくなんでも出来ると知れたのに!?

 わたくしはハンカチを噛み締めながらマーレに聞く。


「だって、クレアの魔力で魔法使ったら絶対に目立つよ。ちゃんと練度も上がって、コントロール出来る様になったらいいけど……じゃないと……ねぇ」

「だな」

「なんで2人で納得していますの?」

「じゃあ、『水球アクア・ボール』ってあっちの方……あの遠くに見える木に向かってやってみれ」

「分かりましたわ。『水球アクア・ボール』!」


 わたくしは使えたらいいなぁ、という気持ちを込めて魔法を詠唱した。


 すると、100mは離れている所の木に、50mサイズの水の玉が空から落ちる。


 バッシャアアアアアアアン!!!


「『土壁アース・ウォール』」


 わたくし達の方に来る濁流は、ティエラが魔法で土の壁を作って守ってくれた。

 それが無かったら、確実にびしょ濡れになっていた。

 没落感はでるかもしれないが、それは優雅ではない。


「分かった? だから、基本的には僕達が教えた魔法以外禁止ね? じゃないと、その力を目当てに王都に連れていかれるよ」


 せっかく全属性の魔法が使えるのに……と思いつつも、王都でハードワークはしたく無い。

 田舎でのんびりスローライフ。

 これがわたくしのやりたいことですので。


 でも、わたくしはくじけない。

 スローライフをするのに、きっとこちらの力なら、役に立つはず。


「でもわたくしには【ハウスメーカー】のスキルがありますから!」


 わたくしはちょっと叫んでしまった。

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