第12話

男はため息をつくと、私の背に左腕を入れ、右手をベッドの反対側について私を起き上がらせた。


ベッドの端にクッションを置き、そのまま私の背をもたれかけさせる。






私は視線を前に戻すし、そのまま虚空を眺めた。








「固形は無理そうだから、とりあえずこれ。

飲めるだろ」









男は、そう言って私の口元にストローを持ってきた。


何もしたくない上に気力がわかない。

私はそのストローに口をつけなかった。








「はぁ…」









男は、肩をすくめてため息をついた。


そのまま再び私をゆっくり寝かせると、ストローを外し、コップから液体を口に含んだ。








そして、


そのまま私に口付けると、その液体を口に流し込んできた。









無理やり口に入れられた液体を、ゆっくり飲んでいく。

味も温度も感じない液体を、ぼうっとしながらゆっくりと飲んだ。










途中、飲む速さと口に入れられる速さが違うせいで口から漏れてしまうこともあった。




それを、男がコップに入っていたぶん全てを口移した後、彼の服の袖で私の口を拭いてくれる。








そこで初めて、彼の服を見た。




V字襟の黒無地の長袖とスエットのズボン。

割と長袖もズボンもダボっとした感じで、男の体型は隠れている。





男は私の視線に気づくと、私の顔をじっと見つめてきた。

それが気になって顔を上げて男の瞳を見つめ返し、首をかしげる。



なに?という意味で。









「………なんでもない。

俺の存在より、俺の服の方を最初に気にするとは思わなかったから、驚いた。」








なにも言っていないのに、私の意は汲んでくれたらしい。

そうなんだ、と少し目を伏せ、もう一度男の瞳を見つめ返す。





「……俺はもう食った。風呂も入ったし」






ご飯は食べたのかと思って見つめたら、彼はまた私の意を汲んでくれたらしく、話してくれた。



視線を下にすると、灰色の掛け布団と同色のシーツが目に映る。

そういえば、部屋を見てなかった。

目線を上げて見渡してみた。







灰色の絨毯に、黒い机にソファー。

カーテンは白と黒2つ。

ここから見えるのはそのくらいだ。

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