第4話

自分の名前だけは覚えている。







しかし、誕生日も家族も思い出も、何もない。


否。

"私"は知らない。







その名前すら、本当の名前なのか確証はない。












ーーーーざわざわ、ざわざわ。












木々が風に撫でられ、騒いでいる。





真冬の中、上着もなく、薄いボロ布のような服だけを着ている。

下着はないし、ズボンもない。

ボロ布のような、一応ワンピースを着ているだけ。









それでも、少しも寒くはなかった。

心地よかった。







目を閉じ、木に寄りかかる。





身元が分かるものは、すべて捨てた。

と言うより、元からそんなものは持っていない。







1つだけ捨てられなかったのは、左耳のピアスだけ。


アレキサンドライトの、ピアス。


太陽の元では赤紫に。蛍光灯の下では青に。

そんな不思議な石のピアス。









ーーーーざわざわ、ざわざわ。










ゆっくりと冷やされる体。


靴はない。

靴下もない。

裸足は枝や石を踏んで傷がたくさん付いている。






それでも、気にしない。


痛みなどない。










あるのは、死への安堵だけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る